第44話 反乱の計画。そして……告白!?

「査問会には中央で幅を利かせている貴族の大多数が集まる。国王や他の王族だって参加する。つまり……そこを潰してしまえば、エメラルド王国の腐敗の大半は取り除くことができるはず」


「警備の兵士はすでに取り込んでいます。抜かりはありません」


 イナベルが説明を引き継ぐ。

 全員の顔を順に見ながら、当日の行動について話し出す。


「王族と貴族の粛清は私がやります。査問会の最中はスキルを封じる手枷を嵌められるでしょうが、それを着けるのは味方の兵士です。アイテムボックスに剣を入れて持ち込むことは問題なくできるでしょう」


「それで……俺達は何をすれば良いんですか、イナベル先生」


「皆さんには貴族の護衛を片付けてもらいます。査問会に参加しない王族の捕縛もお願いしますね」


 査問会の会場には護衛の兵士は入れないとのこと。

 しかし、別室で待っている護衛が異変に感づき、会場に踏み込んでも面倒である。

 彼らの相手を龍一らに任せようとしているのだろう。


「護衛の中には、厄介な者もいます……アウトリア侯爵家の兵士長であるクローリーという名の男。彼は私であっても、容易に撃破できないでしょう」


「先生が手こずるような相手を俺達に……?」


 できるだろうか。不安が龍一の頭をよぎる。

 今更ながら、自分が選択を間違えたのではないかと日和った気持ちが生じてしまう。


「リュー君」


「あ……」


 トワが龍一の袖を引いてくる。

 その瞬間、不安が消し飛ばされた。

 なんて単純なんだと自分でも思うが……トワの瞳を見つめているだけで、そこに宿った信頼が伝わってきた。何だってできるような気がしてくる。


「まあ、別に良いけどな。こっちは問題ねえよ」


「我々もだ。リューイチ以外にも、手練れの冒険者を用意しておこう」


「第一のが強引なことをしてくれたおかげね。誘致が楽に済みそうだわ」


 神宮寺、バーブルス、アイスがそれぞれ言う。

 三人ともすでに覚悟を決めているようだ。わずかでも怯えてしまったことを、龍一は心から恥じた。


「城の兵士のうち、平民の者達を中心にして協力者は集まっている。地方貴族もカイン伯爵をはじめとして、協力に同意してもらっている。あまり時間をかければクーデターを気取られるかもしれないし、二日後が最大のチャンスになるだろうね」


「各々、準備を整えておいて欲しい。時間がないところを申し訳ないが……国を守るためだ。どうか力を貸してもらいたい!」


 リークズに続いて、カイン伯爵が力強く言う。

 この場にいる人間は立場も考え方も目的すらも違う。

 それでも……敵は同じである。共にエメラルド王国の腐敗を打ち滅ぼすことを誓い合った。


「それじゃあ、今日のところは解散だ。みんな、当日は頼んだよ」


 それから、決行の時間や配置などを話し合い、今回の集まりはお開きになった。

 神宮寺が部下を連れて、ラブホテルの一室から出て行こうとする。


「じゃあな、黒衛。白井も」


「ああ、またな。神宮寺」


「またねー、神宮寺君」


「当日は日和るなよ? さっき、ビビッてたのモロバレだぜ?」


「ウルサイ。放っておけよ」


「ハハハハハッ、じゃあな」


 神宮寺が去っていき、バーブルスとアイスも続く。

 龍一も出ようとするが……そこで呼び止められてしまう。


「すまない。君達は残ってくれないかな?」


 リークズである。

 何故だろう、龍一達が出て行くのを制止してきた。


「……何でしょうか?」


「カイン」


「……かしこまりました。何かあったらお呼びください」


 カイン伯爵とイナベルまで出て行ってしまう。

 リークズの従者らしき女性は残っているが……壁際に立っており、我関せずという表情で黙り込んでいる。


「リュー君、何かな?」


「まさか……!」


 龍一が固唾を飲んだ。

 まさか、悪い予感が当たってしまったのか。

 龍一がトワを庇うように立ちふさがり、もしもの時のために警戒する。

 そんな龍一とトワを見据えて……リークズが微笑み、どこか甘ったるい表情になる。


「君達に聞きたいことがあるんだが……二人はもしかして、恋人なのかな?」


「……そうですが。悪いですか?」


「悪くはないさ。予想通り……」


 リークズが溜息を一つ吐いて、こちらに近づいてきた。


「こんな感情を抱いてはいけないとはわかっている。迷惑だってこともわかっている……それでも、思いを伝えられずにはいられなかったんだ。こんな気持ちは初めてだからね」


「ちょ……!」


 近づいてくるリークズに、龍一はいよいよ危機感を抱いた。

 トワを手で下げる。逃げるべきか、殴るべきか……どうすれば良いのか迷ってしまう。


「どうやら、僕は一目惚れしてしまったみたいだ。この想い、受け取ってもらえないだろうか?」


「ッ……!?」


 リークズが手を握ってくる。

 告白の言葉に、龍一が息を呑んで目を丸くする。

 予想外の事態。予想外過ぎる事態。

 どうして良いか本気で分からずに、呆然としてつぶやく。


「…………………………俺?」


 リークズが手を握りしめ、熱く見つめているのは……まさかの龍一だったのである。

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