第10話

その声に、振り返れないまま、私は、慌てて涙を拭った。革靴の音は、真っ直ぐにこちらにやってくる。


「英玲奈?どうした?また振られたのか?」


「そうよ!フラれたの!ほっといてよ!」


私は、泣いた事がバレないように、麗夜の顔を見ずに答える。


「誰に?」


(誰に?そんなの……決まってるじゃないっ)


「麗夜には、言いたくないからっ!あっちいって!」


どうせ麗夜は、今からあの可愛い営業アシスタントとデートなのだから。こんな惨めな私を見ないで、さっさとどこかに行って欲しい。


「何で捨てたんだい?」


麗夜の掌が私の頭にポンと乗せられて、見れば、麗夜のもう片方の掌には、さっき捨てた紙袋が握られている。


「……何で……それ……」


麗夜が、月明かりの下で、唇を持ち上げた。


「さっき、営業アシスタントの女の子と、話してたら、僅かにピンヒールの足音がしてね。てっきり英玲奈かと思ったけど、その後もなかなか僕の部屋来ないから、探してた。その時、ゴミ箱の中から見つけたんだ」


「……要らなくなったから捨てたの!」


「僕の為に作ったのに?」


麗夜が、困ったような顔をしたながら、私のかじかんだ掌を掴むと、白い吐息をかけた。


冷え切っていた指先は、急速に血液が巡るようにカッと熱くなる。

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