第3話

派遣社員、それも三ヶ月契約での勤務は、今までもあったが、こんなに親切に教えて貰ったことはなかった。いつも誰でもできる仕事しか任されないから説明は適当だった。


「あ、説明早かった?」


「いえ、凄く丁寧で驚いてしまって」


「ふふ、分からないことあったら聞いてね。じゃあ、早速電話取ってくれる?ほとんどが、取引先から、商品引き取りの希望日時と配達先を知らせる電話だから」


「分かりました」


私は、小さく咳払いしてから喉を整える。色々な所で働いてきたが、初日はやっぱり緊張する。手元の電話のランプが光り、音が鳴ると共に、私は、受話器をあげた。


「はい。ありがとうございます、三浦運送、南夏音です」


『え?』


電話の向こうからは、一文字、そう戸惑った声が聞こえてきた。


滑舌が悪かっただろうか?


「すみません、聞き取りづらかったでしょうか?三浦運送、南夏音です」


『嘘だろ……夏音?』


「え?」


今度は私が、間の抜けたような一文字を口から発していた。


(そう言えば、この少し高めの声)


記憶の端はすぐに、電話の声に引き寄せられるように、電波に乗って繋がっていく。


『俺だよ。来斗。橋本来斗はしもとらいと


「来斗……」


その名を呼んだのはいつぶりだろうか。もう二度と呼ぶ事も会う事も、声を聞く事さえもないと思っていた。

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