第8話 舞踏と青年

 別の近衛兵から云伝を貰った。アリス様からである。舞踏会が始まる前に部屋に来い、という旨である。

 舞踏会の少し前、街が暮色に染まっている。僕は部屋を訪ねた。アリス様だけである。

アリス「よく来てくれました。あなたに聞きたい事があります。あなたが正義のヒーローを名乗る男性ですね?」

 僕は冷静さを作り出し、拒否した。

アリス「列車の件といい、アレンに調べさせましたが、毎晩外套を著て城下町に繰り出しては疲れて寮に帰って来て、しかも高確率で手に血が付いている。正直に云いなさい。お姉様には云いませんから。わたくしはあなたの行動を尊重しているのですよ? 現にわたくしはあなたに専用のスーツを作らせましたから」

 専用のスーツ? 制服を作る際に僕のウエストを調べる必要があるから、事実的上司のアリス様が分かっていてもおかしくは無いが、何より完全に招待に気付いている。最悪の場合、遠くへ逃げる。

僕「僕がその正義のヒーローを名乗る男です」

アリス「本当にあなたで良かったわ…。わたくしの貯金を使ってあなた専用のスーツを作らせましたから、王国へ帰った時に著てみてください。流石に持ってきてはいませんから」

僕「何もお咎めは無いのですか?」

アリス「えぇ。単に聞くだけでしたから。さ、護衛の任に戻ってください」

 僕は困惑しながら、「御意」と云い、定位置に戻った。


 舞踏会が始まり、3人の近衛兵が燕尾服を著、僕と他数名は制服のまま居丈高に屹立している。併し帽子は外している。

 始まってすぐに、僕の隣に車椅子に乗った、恐らく僕とあまり年の変わらないエルフが来た。彼女はしめやかに麗しい煥乎な銀髪である。絢爛な服では無いが、十分に高級な服である。彼女は僕に話しかけた。

エルフの青年「初めまして。私は「アンムート・クライネ」と云います

 僕も自己紹介をした。アンムート…、ジョルノ皇国の帝の一族の名ではないか。

クライネ「アートルムさんすみません、ノンアルコールの物を2つ取ってきてもらえませんか?」

 僕は「分かりました。あと「さん」と敬語は要りません」と云って取って来た。2つ渡そうとすると、1つは僕のだと云った。

 クライネと閑話をしながら、呑んでいたその時である。卒爾、或るボーイから一瞬、ナイフを持っている様に見えたのだ。僕は持っているグラスをクライネに渡し、人をかき分けてボーイの所へ行った。

 ボーイがアリス様に近づいた時に、ナイフを取り出し、刺そうとした。僕はナイフを持っている方のボーイの手首を握ると同時に、アミアブルがボーイの膝裏を蹴り、体制を崩させた。

 アミアブルとアイコンタクトを交わし、ボーイに締め技をかけて拘束した。


 色々あったが、夜である。夜が雲を染めて黒橡にし、その雲が大地を暗くしている。

 僕は今、アミアブルとアリス様が泊まる部屋の出入り口の外側で、警備している。

 卒爾、アリス様が「アートルム!」と叫ぶ声が扉越しに聞こえ、蹴破って入ると、3人の男が2人を襲おうとしている。アミアブルを襲おうと、すぐそばにいる男に剣を投げ、雷魔法でアリス様に近づく男を攻撃し、3人目を殴って気絶させた。

 アミアブルは僕の剣で男を斬り、2人目を拘束した。

 アリス様は泣いて僕に抱き着いた。

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