帰還した吞兵衛勇者〜異世界から帰ってきたら日本がダンジョンだらけになっていたんだが?〜
まぐな
第1話
『グアアアァァァァァァ!!!』
漆黒の鱗で覆われた巨大なドラゴン。その巨体が断末魔を上げ俺の前に倒れ込み、徐々に黒い霧となって消えていった。
「……ハア、ハア。ようやく倒した」
魔王なだけあってかなり苦戦してしまった。戦闘が始まって何度日が変わっただろうか。
俺が大の字に倒れ込んでいると、顔を覗き込むようにローブを見に纏った女の子が心配そうに声を掛けてきた。
「タイチ、大丈夫ですか……? 回復魔法は必要ですか……?」
彼女は俺を含めた勇者パーティの僧侶を務めるマリー。世間からは聖女などと呼ばれているらしい。
「いや、とりあえず大丈夫だ。それより、ほら、アレ」
もう我慢できない。
俺が飲み物を呑むような仕草を見せると、マリーは呆れたような顔を見せた。
「……あんた、ここでも酒って言う気?」
同じく呆れた様子でそう声を掛けてきたのは魔法使いのセリーヌ。
そう言いつつも空間魔法から銀色の水筒を取り出した。
「いやはやセリーヌ様。わがままを聞いてくださり感謝いたします」
「気持ち悪いからさっさと受け取ってくれる? ったく、お酒のことになるといつもこうなんだから」
「ですです。 タイチが感謝するのはお酒を恵んでもらったときだけです」
「いいじゃん別に。ほら、俺これでも一応世界を救った勇者なわけだし?」
そうして俺はセリーヌから受け取った水筒のキャップを開け、勢いよく喉に流し込んだ。
「……プハァッ! これだよこれ! このために俺は生きている……!」
水筒の中に入っているのはこの世界に来てようやく見つけた美味い酒。ウイスキーのような琥珀色の酒で、少し癖があるが飲み慣れると病みつきになってしまった。
俺たちがそうして談笑していると、目の前が急に明るくなった。
光が徐々に収まると、そこには俺がこの世界に来てから世話になっている奴が腕を組んで仁王立ちしていた。
「あなたね……なんで魔王城で酒盛りなんて始めてるのよ!」
「おうクソ女神。元気か?」
平凡な男子大学生を異世界に呼び出した張本人、それがこのクソ女神である。
世話になっているとは言ったが、昔からこいつのことはクソ女神と呼んでいる。それ以上でもそれ以下でもない。
「だからクソ女神って呼ぶのやめなさいって言ってるでしょ!」
「分かった分かった。 それで? 俺はもう元の世界に返してくれるのか?」
「……一応私、神様なのよ? はあ。 そうね、あなたの任務はこれで終わりよ。 別にこの世界に残っても良し、さっさと日本に帰るも良し。 そこはあなたに任せるわ」
「じゃあ、即帰還で」
この世界にきて3年。忙しく過ごしてきたが俺は元々インドアな性格なのだ。家で酒を飲んでいる方が性に合う。
「少しは私たちと別れる寂しさとかも感じてくれないですか? 即答されると傷つきます」
マリーは不満そうにそう呟いた。
「いや、別にお前たちとさっさと別れたいって言ってるわけじゃないぞ? ただ元の世界の酒はこの世界とは比べ物にならないほど旨いからな。 ま、酒には目がないし?」
「それ、私たちが酒以下の立ち位置にいるってことですよね……?」
「よし、決めた。タイチ、あんたは私のヘルフレアで亡き者にしてあげる」
セリーヌは杖を掲げると目の前に大きな火球を作り始めた。セリーヌさん? それ、この辺一帯が焼け野原になる魔法ですよ? 一個人に向けて良い火力じゃないんですよ?
「ごめん、まじでごめん。 俺が悪かったから魔法解除してくれ!」
俺は土下座をして頭を地面に擦り付けた。
セリーヌはやるときにはやる女なのだ。 やるってのは『殺る』ね。
「……フン」
そっぽを向きつつも何とか魔法を解除してくれた。もうこいつが魔王だろむしろ。
「じゃあ、帰還で良いのね? もうやり残したことは無い?」
「もう異世界は十分だ。これでお前ともおさらばだなクソ女神」
「そんなこと言ってたら違う世界にランダムでふっ飛ばすわよ?」
「冗談だって。 世話になったな。マリー、セリーヌも元気でな」
俺の体は徐々に光に包まれる。懐かしいな。俺が異世界に来た時もこんな光に包まれたものだ。二度とごめんだけど。
俺が帰還を待っていると、マリーがてくてくとこちらに歩いてきた。
「ん? どうした? 俺との別れがそんなに寂しいか?」
「……タイチはさっき言いました。元の世界には美味しいお酒があると」
まあ、言ったな。事実だ。
「私たちと別れることよりもそのお酒を選ぶ。その理由を”自分”で調べてみます」
「……は?」
そう言ってマリーは俺の胸に抱きついてきた。
「ちょ、お前待てって!」
「マリー! ちょっと待ちなさい!」
セリーヌもマリーのまさかの行動に目を見開いてこちらに駆け寄ってくる。
さっさと引きはがして帰還させてもらおうと、クソ女神の方へ視線を向けると今までで一番の笑みを浮かべていた。
「これでおさらばね? クソ太一君?」
「……お前のことは死んでも許さんぞクソ女神!!!」
その瞬間、目の前は目も開けられないほどの光に包まれた。
こうして、俺は元の世界に2人のお荷物を連れて帰還することになった。
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