最弱勇者は過去に捕らわれる。

団栗珈琲。

第1話 勇者は過去を思い出す

 あの時―――。

 あの時から、いつも同じ夢を見る。あいつらの最期を。

 今でも脳裏に焼き付いている。

 ただ消失感だけが、俺の心の中でこだまする。

 あの時からだろうか。

 俺が過去に捕らわれるようになったのは。

 勇者は過去に縋るかの如く手を伸ばす。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 勇魔歴一○○○年。

 この年は、魔王が倒されてから一○○○年。そして、魔王が復活する年である。

 それに加え、神が勇者を選ぶ年だ。

 千年に一度魔王が復活する。それはもう、伝統のようなもので、人々はそれが当たり前だと認識している。

 最弱勇者は神に選ばれた。

 その最弱勇者が歩んだ道は神唯一の失敗と揶揄されるようになる。


   ✕   ✕   ✕   ✕


「ねぇ! あんたが勇者に選ばれたってほんと?」

 そう、明るくはきはきした声で、ウィーケスに声をかけてきたのは、ウィーケスとは古い付き合いのアリスだ。

「ああ。ほんとだよ」

「それにしても、あんたがねえ…。あんたこの国で一番弱いじゃない」

「ははっ。そりゃあ違いないな。」

「違いないって…。あんた…それ自分で言っていいものなの?」

「いや、お前が言ったんだろ」

「わたしが言うのと、あんたが言うのとじゃ言葉の重みが違うのよ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんなのよ」

「とりあえず。国王に挨拶してきたら?」

「おう。そうする」

 ウィーケスそう言い、別れのあいさつ代わりに片手を上げる。

(国王に挨拶かあ…そういや、まともに話したことないかもしれないな)

 そんなことを考えながら、歩を進める。


  ✕   ✕   ✕   ✕


『そこの突き当りを右に曲がったら、王城よ』

 ウィーケスはアリスのその言葉を思い出しながら歩いていた。

 簡単な道程みちのりだが、如何せん距離が長い。

 暫く歩いていると、立派な王城が見えてくる。

「おお。これはすごいな」

 ウィーケスの口から思わず、感嘆の声が漏れる。

 今までの人生。王城など用などなかったので、見たのは初めてだった。

 それにしても立派な装飾だ。

 至る所に宝石のようなものが埋め込まれている。

(俺は今からここに入るのか…)

 ウィーケスは無意識に、息を飲み、固唾を飲み込んだ。

「なにか用ですか?」

 そういう門番に、ウィーケスは神のお告げが書かれ紙を手渡す。

「ああ。お前が勇者か」

 門番はそっけない態度でそういう。

 それどころか、敬語から溜口に変化したのだ。

 何もない一般人よりも馬鹿にされていると取っていいだろう。

 一○○○年に一度選ばれる勇者に取る態度とは思えないが、その門番の態度も仕方ないだろうと、ウィーケスは思う。

 それもそうだ。ウィーケスは散々、国最弱の男だと馬鹿にされ続けたのだ。

 そして、その余りの弱さに、国王にまでその弱さは届いているのだとか。

 その対応にも納得がいくというものだ。

 それにしても、勇者だぞ? とは思わなくもなかったが。

「まあいい。入れ」

 門番にそういわれ、俺は城内へと足を踏みいれる。

 それにしても、豪華な城だ。

 余すことなく、彩られた庭。

 ウィーケスの身長の何倍もある、巨大な城。

 その城の姿はまさに圧巻といえよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る