第10話自殺未遂

僕は数百錠、睡眠薬を飲んだ。

この世に未練はなかった。

陽太は2歳になり、みさとは仕事を頑張っている。僕はA型作業所で働いていたが、貯金も底を尽き、転職活動も上手くいかない。

全てが嫌になり、睡眠薬を飲んだのだ。


目を開けると、真っ白な世界。

ここがあの世か?と思ったら、病院のICUのベッドの上だった。

両腕に点滴が刺されていた。

話しを聴くと、胃の中の睡眠薬が溶けていたので、尿として排出出来るように、点滴をしているそうだ。

みさとが迎えに来た。

「藤岡君、もう二度と馬鹿な事はしないで!A型で良いから焦らないで頑張って行こうよ!」

「……うん、ゴメン」

「さっ、帰るわよ」 

僕は病院を後にした。

陽太を保育園に迎えに行き、回転寿司屋に行った。

寿司好きの僕は食べられなかった。


「藤岡君、気にしないで。食べられなかったら、ビールでも飲んでよ」

「ありがとう」

僕は生ビールを1杯だけ飲んだ。


帰宅すると、みさとと陽太はお風呂に入っている。

僕は、一人して泣いた。

なんて、馬鹿な事をしたんだろう。僕は最低な旦那だ!

障害年金とA型の給料で、月に換算して20万円の稼ぎ。

それで、良いとみさとは言う。


交代で風呂に入った。

夜、みさとは缶ビールを飲みながら、

「藤岡君、暫く実家に帰って静養したら?名古屋じゃ、落ち着かないでしょ?10万円渡すから、1ヶ月くらい、地元でゆっくりしなよ」

僕は仕事の事を考えた。翌日、会社に事情を話して辞める事にした。

A型施設は沢山ある。ここを辞めても仕事はある。

地元で、短期のアルバイトをすれば良いのだ。ネットで調べたら、実家近くの花農家で水やりのバイトがあったので、応募したら雇ってくれた。

そして、僕は地元で静養した。

バイト時間は3時間。時給840円。

3週間で2万円ほどもらい、ゆっくりした。

両親は病気の事を心配していたので、バイトをしていると、安心した。

父が休みのたんびに、ドライブに連れて行ってくれた。


その頃、弟は結婚して隣町に住んでいたが、週末になると、実家に来て家族で芋焼酎を飲んだ。

楽しい3週間はあっという間に過ぎた。

ある日、名古屋に帰るために鹿児島空港でみんなで飲んだ。支払いは僕がした。

心身ともに活力が湧き、家族にありがとうと行って、タラップに向かった。

タラップを歩いていると、空港の屋上から家族が手を振っていた。

僕も気付いて手を振って、飛行機に乗り込んだ。


既に、鹿児島のお土産は宅配便で自宅に送っていた。

みさとはヨーグルッペが好きで、一箱買って送っていた。

陽太には、ウルトマンの人形。


「ただいま〜」

と、玄関を開けると陽太が走って来て、

「パパ、おかえりなさい。ウルトマンごっこしようよ!」

「風呂入って、飯食べたらな」

「うん」


と、荷物をリビングに置き片付けて、陽太と風呂に入った。

みさとは、肉じゃがを作っていた。

「藤岡君、どうだった?実家は」

「うん。楽しかったよ。明日から、仕事さがすから。A型でも良いよね?」

「もちろん。無理しないでね」

「みさともお風呂入ったら?後は、僕がするから」

「茹でたサヤエンドウがあるから、出来上がったら、上に乗せてね。お風呂入ります。ヨーグルッペありがとう」

「10万円の残り4万円位あるけど」

「2万円あげる。残りは返してね。だって、バイトしてたんでしょ?バイト代は自分で使って良いよ」

「ありがとう」


僕はパソコンの前に座り、仕事を探した。そこには、郵便局のバイトの求人が出ていた。

夕方5時から夜の10時まで、ハガキの仕分けの仕事が。これだ!と、思った。


みさとが風呂から上がり、3人で夕食を食べた。

みさとは元小料理屋の娘だから、料理が美味かった。

この前は冬瓜を煮て、肉そぼろのアンを掛けて食卓に並べた。

冬瓜なんて、久しく食べていなかったが美味しかった。


食事が済むと、僕は皿洗いをして、ヨーグルッペを3つ取り出して家族で飲んだ。


「みさと、僕は郵便局のアルバイトしようと思う」

「どんな仕事?」

「ハガキの仕分け。夕方5時から10時まで。だから、陽太の送り迎えは出来るよ。でも、みさとは5時には帰れないよね?」

「うん。朝送ってくれたらそれだけでも楽だから」

「バイトが休みの日は迎えも行くよ。土日が休みにならないらしいけど良い?」

「たまに、日曜日休み取ってよ」

「分かった」


僕は翌日、郵便局の面接に行き、翌週から働く事になった。

これで、月に9万円くらいの給料になる。

バイトは楽しかった。おばちゃんとハガキの仕分けして、しゃべりながら仕事をしていた。

郵便番号が460で始まると中区とか、郵便番号で場所を覚えなくてはいけない。

そんな生活を1年ほど続けた。

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