ご都合転生〜魅了スキルを手に入れたけど、博愛主義者の俺は全員を愛す〜

青野ハル

第1話 異世界転生ってマジかよ

「くっ。儂もここまでか。まさか、自慢の手先が全員裏切るとは。お主、何者じゃ」


 俺の目の前にいるのは、狼狽の色を見せている、魔王軍幹部。それもそのはず。彼の用意した部下達は、全て俺の手の中なのだから。


「俺は転生者マツタニ。一応、冒険者でやらせてもらっている。能力はチャーム。魅了スキルだよ」

「は……? 馬鹿正直に自分の手札を晒すとは、どういう腹づもりだ」


 訝しむのも無理はない。普通に考えれば、懇切ご丁寧に、敵に能力を教えるなんて、愚かしいにもほどがある。

 でも、それでいいんだ。小細工なんて必要ない。これが俺の流儀だから。


「相手を知るには、まずは自分からってね。君のこと、もっと知りたいな」


 そうさ、俺は異世界転生者。ひょんなことから、誰もを魅了する能力を手に入れた、優柔不断野郎。


 これは、愛に生き、愛に生かされた俺が、自分の知らない愛の形を見つける物語。





「もがもが。はぁ、はぁって……あれ」


 痛い。痛い。苦しい。息苦しさから逃れようと、必死にもがく。いや、もがいていたはずだった。

「ここはどこだ?」


 俺は川で溺れて死にかけていたはず。もしかして、奇跡的に助かったのか……?

 何か手がかりはないかと、周りを見渡してみるものの、草木が果てしなく広がっているばかり。


 見知らぬ場所にポツンと一人。なぜか濡れていない服を着ているだけの状態は、あまりにも絶望的すぎる。その割に、持っていたはずの財布や携帯は見当たらないのだから、どうしようもない。


「なんだこいつ。貧相な身なりをしているが、旅の者か」


「ちぇっ。金目のモノ持ってなさそうじゃん。だけど、なんか珍しい服着てんね」


 打つ手無しの状況に途方に暮れていると、林の中から物騒な物言いの男女が飛び出してきた。


 中世ファンタジーに出てきそうな鎧を着た、ツリ目の少年と、好戦的な目をした獣耳の少女。うん? ケモミミ?


「いやー。人がいて助かりました。川に流されてきてしまったのか、場所が分からなくて。ここはどこですかね」


 結構な趣味をした二人組みたいだが、そんなことはどうでもいい。せっかく、話の通じそうな人に出会えたんだ。まずは情報収集。話はそこから。


「なんだ、記憶喪失かよ。川に溺れてねえ。服も濡れてねえのにか」


「いいカモじゃん。それに、多分だけど、異世界転生者じゃない? 噂どおりだしさ」


 場所を訊ねたというのに、そんなことはお構い無しに話し出す二人。

 さっきから話を聞いている限り、彼らはどうやら、善良な一市民という訳ではないらしい。


だけど、そんなことより……。

 ケモミミ女が発した、聞き捨てならない言葉に頭が固まる。


「いせかい……てん、せい」


 異世界転生。アニメオタクの俺だ、言葉の意味は勿論分かる。

 過酷な残業に心を蝕まれた時、こんな世界があったらなと、妄想を膨らませたことは数え切れない。  

 

 しかし、だ。所詮は妄想。そんなこと、あるはず無いと思っていたのに。

 知らない場所。濡れてない服。現実離れした格好の男女。全てが繋がっていく。


 ……俺、死んじゃったのかよ。


 じゃあ、明日発売の推しの漫画は、来月から始まるラブコメのアニメはどうなるの? 見れないってか。あんまりじゃないか。


 ……まあ、でも。

 おそらく生前の最後の記憶。急流に足を取られて、視界が水面に染まる直前。

 その手を掴んで引っ張り上げた、少女の目が脳裏に映る。


 そうだ。未来ある子どもの命を守れたんだ。後悔はない。

 くよくよしても仕方ない。せっかく貰った新しい人生。楽しまなきゃ、損か。


「異世界転生者ねえ。死にかけた記憶を持つ別世界の人間が、百年に一回この世界に現れる、だっけか。その割には、めちゃくちゃ弱そうだけどな」


「まあまあ。一旦、こいつ捕まえて、転生者なら研究所にでも渡せばいいし、違うなら奴隷商人にでも売っちゃえばいいっしょ」


 しかし、そんな感慨に浸れるほど、この世界は甘くないみたいだ。


 俺のことを金としか見てねえ二人組が、どこからか取り出したおっかない武器を振り回してくる。

 転生して早々、どこかに売り飛ばされるのは、さすがに勘弁してほしい。


 しかし、百年に一回か。そんな奇跡的な確率に選ばれるほど、大層な人間じゃないんだけどなあ。


「こらこらっ。逃げ回らない。大人しく捕まらないならさ、ちょっとくらい、痛い思いさせてあげてもいいよね」


 狂気じみた言葉で追いかけ回してくる少女に、冷や汗がどっと吹き出す。

 いくら可愛くても、ノリノリで武器を振り回してくる女の子は、普通にホラーだよ!


 てか、こういう転生には能力が付き物じゃん。

 一向に発動する気配が無いんだけれど、世界のバグか何かですか。いや、世界のバグは俺か。


 元々、そんなに体力が無かった俺は、簡単に追い詰められてしまった。前には、戦闘狂の少女。後ろには鎧を纏った武装少年。

 転生、即ゲームオーバーなんて、あんまりだ。


「これで終いね」


「やっ、やめろぉぉ」


 拷問用の武器を振り下ろそうとする少女に、すがるような目でまっすぐ訴える。どうにもならないと分かっているけど、最後の足掻きだった。


 もうダメだ。お終いだ。痛めつけられる恐怖に怯えながら、目を瞑る。


 だけど、どれだけ待っても、燃えるような痛みはやってこない。

 恐る恐る目を開けると、頬を赤らめさせて、こちらを見つめる少女がいた。


「おいおい、ベリー、何をしている。早くコイツを捕らえろよ……って、お前、なんだその赤い目は? ベリーに何をしたんだ!」


 少女の異変に気づき、近づいてきた少年は、こちらを見るなり、動転して後ずさった。


 この状況を見て、俺は、ようやく自分に起きたことを理解する。

 危機的状況の中、俺の目が何かしらの能力を発動させたらしい。おそらくは、頬を紅潮させたまま動かない少女に、作用したものと思われるが。


 一、二分ほど、ただこちらを見つめていた少女が、ようやく武器を動かす。

 しかし、その敵意のこもった視線は、俺ではなく、仲間だったはずの少年に向けられていた。


「彼は私の愛する人。フロイン、アンタに指一本たりとも触れさせないわ」


 なるほど、そういうことか。これは、なんとも都合のいい能力だ。

 俺が持っている能力は、いわゆる魅了のスキルだろう。相手の好感度を意のままに操れる、世の男性なら、誰でも羨むようなそんな能力。


「ひっ、たっ、助けてくれ。もうこんなことは、しないから。足を洗うからぁ」


 仲間だったはずの少女に矛先を向けられて、必死に命乞いをする少年。やったことがやったこととはいえ、流石に可哀想になってくる。


 しかし、彼は何を勘違いしているのだろうか。


「まさか。そんな酷いことはしないよ」


「あっ、ありがとう……。それなら……!」


 単推しじゃなくて箱推し。好きなキャラはモブも含めて全員。カップリングも何でもござれ。


 俺は前世から、ずっと雑食の人間なんだ。


 さっきの発動した条件的に、こうかな。さっきのシチュエーションを思い出しながら、怯える少年の目を覗き込む。


「大丈夫。君もハーレムの一員さ」


 いきなり異世界転生。手に入れたのは、魅了スキルとかいうチート能力。

 そんな能力を手にした俺は、文字通り、全員を愛すって決めたんだ。



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