第24話 東さんとのデート

 最近の俺は暇を持て余している。生活が安定してしまうと、無職だと時間が余ってしまうのだ。


 メイと出会った当初は金も無かったし、トラブルが続発してあまり暇を感じる事は無かった。しかし最近は金はあるし(メイのお金だけど)トラブルも今度こそ無くなった……はずだ。


 フールがいきなり家に乗り込んでくるような大事件など、そうそう起こることでもない。


 そんな時間を持て余している俺に対して、忙しいはずの東京香さんからのデートのお誘いがまた来てしまった。

 時間はあるし、断る理由は全くない。しかしなんで俺なんかを東さんはデートに誘うんだ……?


 もしかしたら、東さんは俺のことを伝説の投資家だと勘違いして誘ってきているのかもしれない。そう思うとイマイチ乗り気になれない。


 なんて悩んでいたら、メイたちにデートに誘われていることがバレてしまった。どうも、俺は表情に出やすいタイプのようだ。


 それでまあ、メイにも背中を押され、結局俺は東さんとデートに行くことにした。


 相手が有名人だから少々気後れしていたが、よく考えればちょっと二人で遊びに行くだけだ。付き合っていない男女でもそのくらいのことはする。それに、正直東さんみたいな美女とデートできるのは嬉しい。――ただ、変に週刊誌なんかに写真を撮られないかどうかだけは不安だが。


 そう考えると、デートできる場所はあまり多くない。移動方法も限られてくる。そのあたりのことをメイに相談したら、メイが送り迎えをしてくれるそうだ。


 デートをするために、別の女性に車を運転させるのはどうなんだ? と思わなくもない。しかし、タクシーや電車を使うわけにもいかないから仕方ないか。


 メイはさらに、絶対に身バレしない安全なデートコースというものにも心当たりがあるらしい。正直、俺はそれほどデートの経験があるわけではないので非常に助かる。俺では周囲にばれないようなデートコースというのも思いつかないし。


 俺は妙に張り切るメイに、デートコースも任せてしまった。




 そうしてデート当日。


 俺はメイからいい感じの服を着せられ、髪型を整えられた。あとは車で東さんを迎えに行くだけだ。車の後部座席にはスモークフィルムが貼られている。車に乗ってもらえれば、外から俺や東さんの姿が見られることはないだろう。運転席にはメイが座り、俺は後部座席に乗り込む。


 それにしても……メイの正体がわかった今でも、彼女の行動原理がよくわからない。俺は彼女の主になった覚えも、なろうとした覚えもない。それなのに、なぜ彼女は俺をご主人様と呼び、こうも尽くしてくれるのだろうか?


 初めて出会ったあの日の山の中でのことを思い出すが、やはりよくわからない。特別な事は何もしなかったように思う。しかし初対面の時から、彼女は俺に尽くそうという様子を見せていた気がする。


 メイに直接聞いても、ご主人様はご主人様ですからとしか言わないから理由がさっぱりわからない。


 あとでもう少し、フールからメイやフールたちのことを聞いてみるか。

 メイはフールについて、嘘をつくからあまり話を聞いてはいけないと言っていたが……。


 なんでも、フールの一つ前のアンドロイドが正直者過ぎて使いにくかったから、嘘をつくことを得意とする試作機としてフールが作られたという話だ。


 実際にフールがどのくらい嘘をつくのか、出会ったばかりの俺では全く分からない。しかし、情報がゼロよりはましだろう。


 そんなことを考えていると、車は東さんの住むマンションの近くに着いたようだ。東さんはもうその場に待っていた。帽子とマスクをつけているが、いかにも芸能人だというオーラが出てしまっている。早く車に乗ってもらった方がいいだろう。


 メイが車から降りて、東さんをエスコートして俺の隣の後部座席に案内した。本当は俺も車から降りて出迎えたいが、男の俺が東さんと同じ車に乗り込む姿を誰かに見られたらまずいだろう。メイだけの姿なら見られても、マネージャーに見えるかもしれない。


「ごめんね、わざわざ迎えに来てもらっちゃって」


 東さんはかぶっていた帽子とマスクを外し、はにかみながら言った。


「このぐらいは全然いいよ。でも本当に大丈夫? もし俺とデートしたことがバレたら、仕事に影響があるんじゃ?」

「へいきへいき! もしそうなってもその時は気にしないで。アナウンサーって、別にアイドルじゃないんだし」


 東さんはそう言うが、彼女の男性人気はかなり高い。いわゆるガチ恋とよばれる恋愛的な感情を持つファンも多いだろう。本当にいいんだろうか?

 

「今日は楽しみね」


 俺の不安をよそに東さんがそう言って笑顔を浮かべると、車は静かに走り出した。

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