熱血⭐︎転生〜汗と涙の悪役令嬢活劇〜
後出 書
第1話 プロローグ
「教師生活四十年、本当にお疲れ様でした」
校長直々に今までの勤労に対する感謝の言葉と花束を受け取る。
「麻倉先生がいなくなると寂しくなりますなぁ」
「今まで本当にたくさんのことを学ばせて頂きました。定年後もどうかお元気で」
職員室に集った教員一同からも同様に労いの言葉が飛び交う。
今日この日を以て、
麻倉が新米教師としてこの学校へやって来た頃は県内でも特に問題児が多く、校内暴力のみならず他校との乱闘騒ぎ。万引き恐喝。未成年飲酒や喫煙。不純異性交遊に違法ドラッグ、バイクによる暴走行為と、とにかく手が付けられないワル揃いの年であった。
他の教師たちが匙を投げるほど荒廃しきった現状にたった一人で立ち向かったのが、この体育教師の麻倉であった。
当時は情に厚く涙脆い熱血教師として有名で、時には体罰に見えるような行動も涙に濡れた彼の拳を見れば本当の愛からくるものであることは愛のムチを受けた生徒たち自身や、生徒たちへ向けられていた彼の心から溢れる愛の熱量を近くで見ていた教員たちもよく理解していた。
子供と大人の狭間にいて、まだまだ成長途上で危うい存在である青少年たちを真っ直ぐ正しく導くことこそ教育と信じて疑っていなかった愚直な信念。そしてその為の努力を一切惜しむことのない一本気な性格。
特にスポーツを通して青春を謳歌する素晴らしさを生徒らに教えており、麻倉が顧問になったその年にこれまで無名だった弱小ラグビー部が全国制覇を成し遂げた快挙が新聞の全国紙に載ったほどであった。
しかし、時は流れ教師生活四十年。社会の風潮が彼のような熱い人物を必要とはしなくなっていった。体力の衰えが著しくなってきた晩年は生徒指導に注力し、学校の風紀を正すために尽力してきたが、やはり昔のやり方は現代教育には問題があり麻倉の心の内に流れていた熱い血は歳を重ねる毎に徐々に冷めていってしまった。
(もう、ここらが潮時かも知れない)
今年で六五歳を迎えた麻倉は、長きにわたる教師人生に幕を下ろす決断をしたのだった。
「どうですか、麻倉先生。この後みんなで先生の送別会でもと考えているのですが」
教頭がにこやかな笑顔で麻倉に話かける。
「せっかくのご厚意ですが、今夜は一人で過ごしたい気分なので。それでは皆さん、長らくご助力を賜り本当にありがとうございました。どうかお元気で」
そう職員たちに告げると麻倉は一人先に職員室を後にした。教師や関係者専用の昇降口で靴を履き替え、校門を出て一度だけ校舎を振り返る。
(今まで何人もの生徒を見送って来たが、こんな景色だったんだな)
今度は自分が巣立つ番。
思い出の学舎に背を向け、麻倉は駅に向かう道すがらの繁華街へと歩いていく。
駅近くの繁華街は呑み屋、カラオケ店、ゲームセンターなどが多く、よく遅くまで遊び歩いていた青少年たちに説教していたものだ。中でも強烈な思い出と言えば、他校の女子高生が暴力団組員に捕まりそうになっていたところを助け、事務所にまで連れて行かれ拳銃を向けられたこと。そんな鉄火場に居ながらも麻倉は子供たちの為に自らの命を顧みることなく一歩も退かなかった。
その時に連れ込まれた組事務所の雑居ビルも既に取り壊され、今ではその一区画は有名牛丼チェーン店になっていた。暴対法も昔より厳しくなった今のご時世、時代の変革は街中でも目にすることが出来た。
(昔とは街並みも随分変わったもんだ。ここに来るのも今日が最後。時間はたっぷりある。せめて最後くらいゆっくり眺めて行くか。見納めだしな)
そんなことを考えながら様変わりした街並みをじっくり見渡しながら歩いていると、麻倉はふと見覚えのある看板を見つけた。
「このゲーム店、まだあったのか」
周りが真新しい看板が立ち並ぶ中、薄汚れた電飾看板。当時、生徒たちが夜遅くに来ていないか見回りで何度か入ったことがあったのを思い出す。ここで中古のゲームソフトを万引きした生徒もおり、そいつの首根っこと盗品を持って店主に謝りに来たこともあった。
(人の良さそうな店主だったな。俺より歳上そうだったし、もう店先には出ていないだろうが……少し覗いてみるか)
懐かしさに手を引かれるように、麻倉は数十年ぶりのゲームショップに足を踏み入れた。
(変わっていないのは外観だけ。中はすっかり様変わりしているなぁ)
当時はスーパーファミコンが主流でプレイステーションやセガサターンが出始めたばかりの頃だったが、そんなプレイステーションは今や第五世代。ニンテンドーの最新機種も昔の面影は殆ど無い。麻倉自身、ゲームをプレイした経験自体少なく、ファミコンでマリオを数回やったことがあるだけ。
店内のディスプレイに映し出されているデモ画面に映る映像はまるで実写映画のよう。八ビットのゲームしかやったことのない麻倉はその迫力に驚きを隠せなかった。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
不意に背後から声をかけられた。
「あっ、えっと、探し物というか……」
しどろもどろになりながら振り返った麻倉。そこには女子大生くらいの女性店員がいた。
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