第31話 棒で頭を叩かれたのような衝撃

 コンテストは完全に終わりとなった。会場に来賓した貴族たちも自分たちの家に戻り、会場には、残された食事と、それを片付けるボルドー家のメイド達の姿が見えるだけだった。

 セリアとコーラルも会場で分かれ、各々の家へと戻った。二人の顔には、幸せな表情が漂っていた。

 いい日だった。セリアは家へと帰る馬車の中でそう思った。隣にノイフとソイルが座っている。


「そういうことがあったのよ」


 セリアは笑顔でコーラルとの話をしていた。ノイフとソイルは驚いている。


「フィゲル様はどうなったんですか?」


 ソイルが、極めて納得いかないというような、険しい顔でいった。


「フィゲル様はもう、関係ありません。私が好きなのは、コーラル様です」


「それはないんじゃないですか〜?」


「何か問題でも?」


「だって、あんなにフィゲル様が好きだって、言っていたじゃないですか!それを、相手をころころ変えるなんて……」


「好きなものは好きです。ソイルの言うことも正しいとわかります。しかし、好きになっちゃったら負けなのよ」


「まあ、そうですけど。どうしてコーラル様なんですか?何故?」


「何故……?」


「もしかして、理由もないのに好きになったんですか?」


「理由……?」


「セリア様ぁ!!」


「優しいところ、かもしれないわ。男らしい所もあるし……。それに、なんだか守ってあげたくなるのよね」


「守ってもらう、ではなくて?」


「そう。守ってあげたいの。コーラル様は本当にピュアだわ。だから、性格の悪い女が近づかないように、私が側にいないと」


「あなたが言うことですか?」


「ソイル?」


 セリアは笑顔でソイルを見た。反論を許さぬ笑顔。ソイルは、お手上げのポーズを取った。

 そして、ノイフがごほんと咳払いをした。


「セリア様にも厳しくする時が来たようですね」


「何を厳しくするの、ノイフ?」


「コーラル様は公爵家の人間であられます。そのコーラル様とお付き合いする以上、セリア様はそれ相応の振る舞いをしなければなりません。これからは特訓することになりますね。あの作法も、いや、あの作法も……」


「ノ、ノイフ、何をぶつぶつ言っているの?」


「セリア様の将来のためです」


「恐怖しか感じないのだけれど……」


 セリアは身震いした。そして、後日、ノイフによる教育が徹底的に行われることを、馬車の中のセリアは知らなかった。



 セリアとコーラルの間に恋、もしくは愛が生まれている中、リーリエ・ストライドは家へと帰っていた。物凄く落ち込んだ気持ちだったが、仮面は外せない。優等生の仮面を外すわけにはいかないのだ。

 彼女は、凛とした態度で、ストライド家へと戻った。それを待ち受けていたのは、険しい表情の父親と母親だった。リーリエは両親の表情に、違和感のようなものを感じたが、コンテストの成果を発表することにした。


「お父様、お母様、戻りました。私、コンテストで優勝したんです。これも、お父様とお母様のおかげです」


 笑顔を見せるリーリエ。しかし、両親の表情は険しいまま変わらない。


「リーリエ、そこに座りなさい」


 リーリエの父は、部屋に置かれた椅子に視線を向けていた。コンテストの優勝の話に、触れもしない。なにかただならぬものを感じたリーリエは、素直に椅子に座った。


「何か、あったのですか?」


 問うリーリエ。俯く母親。ため息をつく父親。一息ついて、父親は言った。


「ストライド家の領地が、接収されることになった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る