並行世界にて、ダンジョン攻略やってます

夏冬

タイムスリップ

 がたんごとん、電車が揺れる。

 地下を走る電車から見える景色は代わり映えがない、コンクリートの壁。


 電波はやはり通じないようで、スマホは圏外。


『こんなことなら、暇つぶしに本でも持ってくればよかったな』


 心の中の呟き。

 誰に同意を求める訳でもない、聞こえるはずのない愚痴に返事をするモノがいた。


『かもねえ……でもでも、私という話し相手を忘れていないかい、んン? ねえ、そこのところさ。どう思ってるの、シ キ く ん?』


 う、うぜぇ。なまじ声が良いだけに、そのウザさが際立ってくる。


 コイツは一年前から俺の脳内に取り憑いている住人、名前は忘れているようで俺はコイツをアニマと名付けた。


 とにかくアニマは口が達者で、そうでは無い俺からしたら相手にするのも一苦労だ。だからこそ、この一年で身につけた並列思考には助けられている。


 脳内にもう一人の俺を用意して、そいつはアニマとの会話に全てのリソースを注いでいるのだ。だか、たまにであるが、こうしてもう一人の俺を貫通してイラッとしてしまうこともある。


 あらためて、こうなった経緯を思い出し俺は深いため息をついた。



 事の発端は一年前にまでさかのぼる。

 理由は分からないが、もうすぐ三十歳になるはずだった俺。それが中学三年生の俺へとタイムスリップしていたのだ。しかも謎のアニマを連れて、だ。


 そうして、流されるままに生活を送る訳だが。中学生の頃の記憶なぞ、ちゃんと覚えている訳もなく滅茶苦茶に苦労した。そして、歴史の授業中気づいたのだが、ここは俺の過ごした世界とは似て非なる世界のようだ。いわゆる、パラレルワールドってやつだと思う。


 それを確信したのは簡単だ。この世界では、第一次世界大戦が起こっていないのだ。


 そんなことも含め、アニマに質問したのだが返答は分からん、の一言のみ。


 まあ、さした期待もしていなかったので別にいいのだけど、コイツは本当になんで居るんだ?


 まあ、アニマというオマケは置いておくとして。誰もが一度は妄想したであろうタイムスリップが、この身に起こったのだ。


 パラレルワールドだから未来知識は当てにならないだろうが、それでも一度目よりは上手く人生を進められるんじゃないか。


 そんな思いを胸に俺は真面目に勉強した。


 勉強中、常に語りかけてくるアニマに邪魔をされながら……そう、常にだ。脳内に響き渡るアニマの声。


 ……思い出しただけで苛立ちが。ビークールだ、俺。


 気を取り直して。前回よりも要領よく立ち回ろうかな、という漠然とした俺の未来予想図をまっさらにする出来事が起こった。


 それは担任から健康診断の通知書と共に渡された一通の手紙からだった。


 内容はある高校への推薦書。


 その高校こそ、今俺が向かっている場所。


 アトランティス魔法学術院附属高等学校だ。

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