第36話
見慣れた部屋に入り、広瀬さんどうぞ、もう随分聞き慣れた優しい声が私を呼んだ。
ここから先には看護師さんたちも誰もいない。
何か万が一ミスでもあったら困るから私の診察のときはお医者さん以外部屋に入ることは出来ない。
これは身内だからといって優遇されることを嫌う私に唯一パパが提言したこと。
白い病院特有のドアを開ければ、優しい眼差しを向ける彼がいた。
まだ年若い彼が私専属のお医者さんになったのは、その才能と人柄がパパに見込まれた証でもある。
パパはどんなに若くても才能のある人をすぐに見抜いて責任ある現場に置く。
あのパパが私の主治医にするくらいだ。その中でも彼は飛び抜けて気に入られてるのが容易にわかる。
「こんにちは可奈子ちゃん」
『こんにちは』
初めて彼と会ったのは私がまだ小学生の頃。
お祖父ちゃんが亡くなってすぐに院長になったパパは必然的に私一人を献身的に看られる時間を奪われ、仕方なしという感じで、その時はまだ20代だった彼を私に紹介した。
「その後の調子はどうかな?」
『特に変わりはないかな。たまに頭痛があるけど、少し休めば平気だよ』
「そっか、それ聞いて安心したよ」
病院でも一、二位を争う綺麗な顔をした彼が柔らく微笑む。
そんな優しい眼差しが私を女として意識していると感じるようになったのは中学生になってすぐ。
いつものように眼、口を診られた後に、下着を上げて聴診器を当ててもらう。
あの日もそうだった。
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