ティアナの覚悟
ガリオン地方での反乱鎮圧から数日後、ティアナは王城の自室で龍を呼び出した。彼女の表情には深い苦悩が浮かんでいた。
「龍、貴方に相談があります。」
ティアナが切り出すと、龍は無表情のまま椅子に腰掛け、腕を組んで彼女を見つめた。
「話せ。」
ティアナは少しためらいながらも、静かに語り始めた。
「父であるエドワード王は、公爵である異母弟ウィリアムと、その母ダイナを溺愛しています。ダイナは貴族派と密かに繋がりを持ち、彼らに資金を提供している証拠があります。」
龍は冷ややかに口を開く。
「その証拠があるなら、直接エドワードに示せばいいだろう。」
だが、ティアナは首を振った。
「それが問題なのです。父はダイナに心酔しており、どれだけ明確な証拠を示しても、彼女を庇うでしょう。そしてウィリアムもまた、父の後ろ盾を得て王位を狙っています。」
彼女の声には焦りと悔しさが滲んでいた。
「私はこの国の正統な後継者として、父を説得し、ダイナの影響力を削ぐ必要があります。でも、どう動けばいいのか……。」
ティアナの言葉を聞いた龍は短く鼻を鳴らし、冷静に答えた。
「状況は理解した。つまり、ダイナとウィリアムを無力化し、エドワードを説得する必要があるということだ。」
ティアナは頷き、少し期待するような目で龍を見た。
「ええ。でもどうすれば……?」
龍は端末を操作し、淡々と計画を述べる。
「まず、ダイナの資金源を断つ。それが貴族派との繋がりを弱体化させる最も効率的な手段だ。奴らが依存している金が消えれば、動きは鈍る。」
「どうやって?」
「ダイナが資金をどのように流しているかを突き止める。その流れを封じ、同時にその金の出所が不正であることを公にする。」
ティアナは目を見開いた。
「それができるの?」
「できるかどうかではない。やるだけだ。」
龍は冷たく言い放ち、端末を閉じた。
「ダイナの資金ルートを調べる。お前は父を説得する準備をしろ。」
龍は漆黒の騎士を伴い、王都でダイナの資金ルートを調査し始めた。貴族派との繋がりを探るため、彼は密かに貴族たちの会合が開かれる場所に移動可能な小型の盗聴器を仕掛けて監視し、情報を収集していく。
一方で、王都の闇市場に潜り込み、ダイナが密かに取引している金細工商や、貴族派に資金を送る使者の存在を突き止めた。さらに、その金がダイナの領地である地方の税を増税し、そこから集められたものであることが判明した。
「税率が公平でないのは俺のいた世界から思うとおかしなシステムだが、民から搾り取った金を反乱資金に流すとはな。」
龍は冷徹な目で収集したデータを見つめ、鼻で笑った。
「こういう悪は本で読んでいても苛つくが、実際に存在されると腹の立つものだな……」
さらにダイナの資金源に、王国内の鉱山から得られる金の横流しであることを突き止めた龍は、その鉱山を抑える作戦を実行した。彼はティアナとリィナを連れ、直接鉱山へ向かった。
鉱山にはダイナの指示で動く兵士や監督官たちが配置されていたが、漆黒の騎士が一瞬で彼らを無力化した。
「ここを封鎖する。誰も金を持ち出せないようにしろ。」
龍の冷徹な指示の下、鉱山の入り口が封じられ、管理記録が全て押収された。その記録は、ダイナが帳簿を改ざんし、搾り取った金を不正に利用していた証拠が書かれていた。
「こんな金額……これで貴族派を買収していたのね……。税だけでなく、国庫に入るべきものを掠め取るなんて……」
静かに憤るティアナは証拠として帳簿を、王城に持ち帰ることになった。
王城に戻ったティアナは、押収した証拠を手に父エドワードと対面した。彼女の表情には決意が宿っていた。
「父上、これをご覧ください。」
ティアナは資料を差し出し、静かに説明を始めた。
「ダイナが民から搾り取った税を、不正に貴族派へ流していた証拠です。こちらは鉱山の金を横流ししていた記録です。このような行為を続ければ、王国の存続そのものが危ぶまれます。」
エドワードは書類を見つめ、顔を険しくした。
「……ダイナがそんなことを……。」
だが、すぐに彼の表情には迷いが浮かんだ。
「しかし、彼女は私にとって大切な人だ。すぐに決断することはできない。」
その時、背後から龍の冷静な声が響いた。
「決断できないなら、お前の首と共に、この国が滅びるだけだ。」
エドワードが振り返ると、龍が無表情で立っていた。
「俺が持ち帰った証拠は確実なものだ。それでも目を背けるなら、お前は王として失格だ。悪いが俺はお前を見限る。」
その冷徹な言葉に、エドワードは言葉を失った。ティアナがその隙を突くように続ける。
「父上、どうか王として、どうするべきか示してください!」
エドワードは長い沈黙の後、深く息をつき、静かに頷いた。
「……分かった。ダイナの影響力を削ぐため、ウィリアムには一切の支援を断つ。」
ティアナと龍の連携によってダイナの資金源は断たれ、彼女とウィリアムの力は急速に弱体化していった。しかし、彼らが完全に諦めることはなく、新たな陰謀を企てる気配が漂っていた。
ティアナはその危機を感じながら、龍に静かに告げた。
「貴方がいてくれることが、どれほど心強いか……本当に感謝しているわ。」
龍は彼女を見つめ、短く言葉を返した。
「感謝なら必要ない。俺がこの国にいるのは、お前のためではないからな。」
その言葉に、ティアナは小さく微笑んだ。彼の冷徹さの裏に隠された真意を、少しだけ感じ取ったのかもしれなかった。
ダイナとウィリアム公爵の影響力が急速に弱体化する中、貴族派の残党は最後の抵抗を試みていた。彼らは秘密裏に残った資金をかき集め、雇った傭兵団と魔導士を率いて、王国の北部を襲撃する計画を進めていた。
ある夜、王城の会議室でティアナ、龍、リィナが緊急会議を開いていた。そこで、北部の村が襲撃されたという報告が届いた。
「……やはり、ダイナとウィリアムが動き出したのね。」
ティアナが深いため息をつくと、リィナが地図を指さしながら説明した。
「ここ、北部のカトラン地方です。元々貴族派の影響が強い地域で、彼らの支援を受けている可能性が高いです。」
ティアナは真剣な表情で地図を見つめ、すぐに決断した。
「すぐに出発しましょう。カトラン地方を救わなければいけませんわ。」
その言葉に、龍が静かに口を開いた。
「焦るな。奴らが使っている傭兵団や魔導士の能力を把握し、対策を練る必要がある。」
ティアナは一瞬考えた後、龍に頷いた。
「分かりました。貴方を信じて任せるわ。」
龍はカトラン地方に配置された貴族派の軍勢を調査し、その規模と装備を分析していた。特に注目したのは、ウィリアム公爵が密かに手に入れた古代の魔導兵器だった。それは、大量の魔力を消費して広範囲を焼き払う兵器で、村人たちを恐怖に陥れていた。
「これを止めるには、漆黒の騎士の次元干渉能力を使うしかない。」
龍は端末を操作しながら言った。
「ティアナ、お前は村人たちを避難させる指揮を取れ。俺は直接敵陣を潰す。」
その冷徹な指示に、ティアナは少し躊躇いながらも頷いた。
「分かりました。でも、貴方も無茶はしないでください。」
「俺を誰だと思っている」
龍の言葉にティアナは微笑んだ。
カトラン地方に到着したティアナと龍たちは、村を包囲する傭兵団を目にした。その中には、ウィリアム公爵が指揮を執り、巨大な魔導兵器が村に向けられていた。
「全員、準備を整えろ! すぐに攻撃を開始する!」
ウィリアム公爵の声が響く中、龍は漆黒の騎士を前線に送り出した。
「漆黒の騎士、魔導兵器を優先して破壊しろ。」
『了解。目標をロックオンします。』
漆黒の騎士が動き出すと、ウィリアムは驚愕の表情を浮かべた。
「何だ、この化け物は……!?」
ズガァン!
漆黒の騎士のエネルギー砲が魔導兵器を直撃し、その一部を爆散させた。だが、魔導兵器は完全には破壊されず、まだ動いている。
その時、村人たちを避難させていたティアナが戦場に駆け戻ってきた。彼女は剣を抜き、傭兵団の兵士たちを前に立ちはだかった。
「この村を守るため、私は戦います!」
その言葉に、一部の兵士たちは動揺を見せるが、ウィリアム公爵が怒鳴り声を上げる。
「愚か者め! 女一人で何ができる!」
だが、ティアナは動じることなく、冷静に剣を構えた。その姿を見た龍が、端末を操作しながらつぶやく。
「……覚悟は本物だな。」
彼は漆黒の騎士に新たな指示を出した。
「ティアナの周囲の敵を無力化しろ。彼女の道を切り開け。」
『了解。支援モードを起動します。』
漆黒の騎士が次元干渉能力を発動させ、ティアナの周囲の敵を空間ごと封じ込めた。その間にティアナは前進し、ウィリアムの陣へと迫っていく。
ティアナがウィリアムの前に立つと、彼は嘲笑を浮かべながら剣を抜いた。
「お前が王女であることを証明したいのなら、この場で私を倒してみせろ。」
「貴方がこの国を私物化することを私は許さない。」
ティアナは毅然とした声で返し、ウィリアムに向かって剣を振り下ろした。
ティアナの振り抜く剣をウィリアムがかろうじて受け止める。
「国を私物化する愚かな弟、ウィリアム!あなたを許さない!」
振り下ろした剣はウィリアムの剣を弾く。
戦いは短時間で決着した。ティアナの剣がウィリアムの肩を捉え、彼は地面に膝をついた。
「ぐっ……お前が本気でここまでやるとは……。」
ティアナは剣を収め、冷たく言い放った。
「これが私の覚悟です。貴方も、ダイナも、この国の未来を奪うことも干渉することも許さない。」
カトラン地方での戦いに勝利し、貴族派の残党は完全に壊滅した。村人たちはティアナに感謝の声を送り、彼女の名声は高まった。
王都に戻った後、ティアナは父エドワードに報告を行い、改めて国の未来を担う決意を述べた。
「父上、私はこれからもこの国のために戦います。どうか私を信じてください。」
エドワードは少しの沈黙の後、深く頷いた。
「分かった、ティアナ。お前がこの国の未来を託すにふさわしい者だと証明した。」
その言葉は長らく苦しい表情を見せていたティアナの口元に笑みを浮かび上がらせた。
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