量産主義の帝国軍
波斗
プロローグ
一九四二年三月一七日
「壮観だ」
波をはねのけ、巨艦は海をゆく。水平線上には檣楼が幾つも立ち並び、無数の船が海を埋め尽くしている。
16インチ砲を8門備える巨艦、「コロラド」「メリーランド」「ウェストバージニア」。
その3隻を従えるように太平洋艦隊旗艦「ペンシルベニア」は大洋をゆく。
後方には同じペンシルベニア級の姉妹艦「アリゾナ」、コロラド級3隻、ニューメキシコ級3隻、テネシー級2隻が追従し、最後尾には新鋭戦艦の「ノースカロライナ」「ワシントン」が居座っている。
巡洋艦もペンサコラ級、ノーザンプトン級、ニューオリンズ級、ブルックリン級を始めとする十数隻、そして40隻にも及ぶ駆逐艦がそれらの艦隊を取り囲んでいる。
この「ペンシルベニア」の艦橋からは見えないが、数百マイル前方には「レキシントン」「サラトガ」「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」の5隻の空母を主軸とする
戦艦12隻、空母5隻、補助艦艇70隻。その大艦隊は今、日本の委任統治領であるマーシャル諸島に向けてハワイから進行を続けている。
「ジャップに思い知らせてやらなければ、太平洋の支配者が誰であるかを」
太平洋艦隊司令長官、キンメルは艦隊が出港に至った経緯を脳裏に浮かべ、そう吐いた。
昨年8月1日、日本が中国内政に介入し、汪兆銘政権と呼ばれる親日政権を樹立したことに対し、合衆国が禁輸措置を行った。その石油の殆どを合衆国に依存している日本は、南方資源地帯を攻略することを目論み、合衆国との開戦を決意した。
さる1941年12月7日(日本時間8日)、ハル・ノートを拒否した日本はイギリス、アメリカ、オランダに宣戦を布告、オランダ領東インド、英領マラヤ、そしてフィリピンへの侵攻を開始した。
現状、それらの地域での戦況は極めて劣勢と言わざるを得ない。
フィリピンもマニラを落とされ、マッカーサー率いる極東軍はバターン半島にて防戦を行っている。
だからこそ、太平洋艦隊が出撃したのだ。英国はドイツの脅威に対抗するうえで本国に艦隊をおいて置かなければならず、本国を失っているオランダに戦闘での貢献は期待できない。
この戦争の初戦での帰趨はこの太平洋艦隊にかかっていると言っても過言ではない。
一つ、キンメルには不安要素があった。
他少なくとも2隻の戦艦と
一方で日本軍は6隻の正規空母と
航空戦力では劣勢、よくて互角といったレベルだが、戦艦戦力ではこちらが圧倒的に有利だ。補助艦艇でも数、質共にこちらが有利だ。
海戦の勝敗は艦隊決戦によって決まる、航空戦力が多少劣勢のところで太平洋艦隊の優位と勝利は揺るぎはしない。
キンメルは生粋の大艦巨砲主義者であった。
「このような戦力が揃っているのだ、負けるはずはない...」
そう、不安を消すようにキンメルは自分に言い聞かせた。
※ ※ ※
『空母五隻を伴ふ敵艦隊を見ゆ、位置ウォッゼ環礁より西北西一四〇〇海里(2500km)』
最初の報告電はハワイ諸島に展開する乙型潜水艦、伊号第一七潜水艦からのものだった。その後も潜水艦や偵察機から続報は届き、一日としないうちに敵艦隊発見を知らせる報告は十数にも及び、敵艦隊の詳細な規模も掴めてきた。
「情報を統合しますと、敵艦隊は空母五隻の機動部隊を前衛に、戦艦一二隻の主力部隊を後衛に置き行動している模様です」
戦務参謀の渡辺安次少佐が、今までの情報を整理し、発言した。
此処は連合艦隊司令部、旗艦「長門」の艦橋である。
「アメリカ太平洋艦隊の総兵力か...」
連合艦隊司令長官、堀悌吉大将は彼我の戦力を脳内に浮かべる。戦艦、巡洋艦共に敵の七割ほどの数しかなく、艦隊決戦では勝ち目は無い。だが。
堀は連合艦隊編成表を見る。
「
機動部隊である第三艦隊に所属する一〇隻の正規空母だ。それらの艦載機の合計は八〇〇機にも達する。
更にマーシャル諸島の各空軍基地には雷装も可能な一〇〇式中爆撃機が計一五〇機配備されている。
最後の後詰めとして第一艦隊と第二艦隊に所属する戦艦「
「そもそも、立っている土俵が向こうとは違うのだ。新時代の戦いを見せてやろうではないか」
空軍の南方航空軍の司令官は堀の親友の山本五十六だ、彼は航空主兵論を
堀は「長門」の艦橋に居る参謀らを見据えた。
「諸君、連合艦隊の全戦力がこのマーシャルに集結した。この戦いでの敗北は国家防衛の要衝を失うことに繋がり、それは亡国を意味する。負けることは許されない。私は、諸君らが全身全霊でその責務を全うすることを望む」
昭和一七年三月一七日、メジュロ泊地を出港した連合艦隊旗艦「長門」の後部マストにZ旗が掲げられた。明治三八年、東郷平八郎連合艦隊司令長官が日本海海戦時に旗艦「三笠」に掲げた旗だ。
『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ』
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