第17話 『魔術師』の本懐
そして、その影の中央に立つ『魔術師』の男は驚いて目を見開いているミーネット達を一瞥すると、自分の優位を確信したのか高笑いを始めた。
そして、『魔術師』の背後にある影はうっすらと形を成していく。
「……羽根?」
それは、鳥が持つような巨大な羽根だった。だが、それは『本物』ではない。
その正体に気付いたレオハルトは、吐き捨てるようにその名前を呟いた。
「……それがあなたの『媒体』か」
「『媒体』……?」
目の前で起こっていることを理解できずにいたミーネットの言葉を受け、レオハルトはゆっくりと頷いた。
レオハルトの呟きに男はその表情を険しいものへと変えると、憎しみの増した言葉を向けた。
「……『媒体』の存在まで知っているだと?」
「『媒体』―『魔術師』達が魔力を使う為に生まれながらにして、持っている魔力そのものだ。術者によってその形は異なり、その術者の魔術の傾向を表すものでもあり、〝魔獣〟とも呼ばれている」
「貴様……」
男は自分の言葉に応えたレオハルトを強く睨み、その眼力をより強いものへと変えた瞬間、男の後ろから伸びた羽根に光が浮かび上がる。それは徐々に肥大化すると、大きな光の球を作り出していく。
そして次の瞬間、まるで風が吹くかのようにその光の球がレオハルト目掛けて飛んできた。
「レオッ!?」
ミーネットの悲痛な叫びを耳に受けながら、レオハルトは体を思い切り横へと飛ばし、迫り来る魔術の回避を図ろうとする。
「……くっ!」
そして、そのまま態勢を保とうとしたものの、しかし、先程目の前の男に攻撃された両手の痛みに耐えられなかったレオハルトは体を地面へと叩きつけてしまう。
「この―ッ!」
目の前で吹き飛ばされたレオハルトの様子を見た瞬間ミーネットに怒りの衝動が湧き、近くに落ちていた銃を掴むと、レオハルトへと魔術を放った男の方へとその銃口を向ける。
「……なんのつもりだ?」
男は呆れた様子で自分の方へと向けられた銃を見つめる。銃口を向けられているにも関わらず、余裕を崩さない男にミーネットは低い声で警告する。
「これ以上暴れるつもりなら……あなたを撃つ」
しかし、そう告げるものの、銃の引き金を引く彼女の手は震えていた。普通の生活を送っていた人間が簡単に人相手に引き金を引くのはそんな簡単なことではなかったのだ。
だが、相手にとってそんなことはどうでもいい。男はミーネットのそんな恐怖を見抜いたのか、薄っすらと笑みを深める。
それに気付いたレオハルトは大声で彼女を怒鳴りつけた。
「避けろ! ミーネ!」
「……え?」
一瞬、呆気に取られていたミーネットだったが、すぐに目の前の男から再び光が出現したことに気付くと体を壁へと隠した。
「……うっ!」
しかし、壁からの衝撃は完全には無くならず、ミーネットは暴風にさらされ思わず苦悶の声を上げていた。
「ミーネ!」
「……だ、大丈夫!」
レオハルトは叫びながらすぐに駆け寄って行こうとしたが、それを制止するようにミーネットは大きな声で無事を告げた。
ミーネットの無事に安堵の息を吐くレオハルトだったが、すぐに元凶の方を睨み付ける。そんなレオハルトから視線を向けられた男も同様に視線を返すと、吐き捨てるように呟いた。
「ちっ……しぶとい」
そして、男は再びその手を構えると大きな光を生み出した。それは徐々に大きくなっていき、とうとう教会の中庭を埋めるほどの大きさになっていく。
「これは……」
後から追手を振り切りながらレオハルトを追って来たトニスが思わず唸る。彼だけではなく、そこに居る全ての人間が未知の光に恐怖を抱き、また戦慄していた。
その視線を受け、魔術師集団『ケファクルト』の第二十七番隊隊長―ジョーン・ルクウィンはうっすらと笑みを浮かべた。
「我が名はジョーン・ルクウィン! これが―この私の一撃が、新たな戦争の引き金となる!」
まるで、己の役目のすべてをここで費やすかのようにジョーンは声を上げていた。その瞳を狂気に染め、まるでこの行為こそが己の本懐だとでも言わんばかりに。
「我々を追いやり、のうのうと生きる『征錬術師』を滅ぼす為の―我々の戦争が!」
ジョーンはそう叫びながら全身から大量の汗を吹き出していた。
自分の命を削って魔術を使う『魔術師』。
当然、これだけの規模の魔術を使用すれば、術者自身どう考えてもただでは済まないはずだが、ジョーンには迷うような素振りはまったくなかった。自爆覚悟の強大な魔術に、周囲はただ圧倒され悲観するように目を閉じてしまう。
これだけの大きさの魔術であれば、その被害は計り知れない。―ただし、それは魔術が成功すればの話だ。
「……そんなこと、許すはず無いだろ」
そう呟くと同時に、レオハルトは地面に付けていた腕を上げると、激痛が走ることも構わずに大きく腕を振るう。血にまみれた手から大量の血が地面に向かって垂れていく。
そして、それが終わる頃にはレオハルトの目の前の地面には彼の血で描かれた巨大な『陣』が描かれていた。もはや手で『征錬石』どころか白墨すらも持つことができなかったレオハルトは自分から流れていた血で『征錬陣』を描いていたのだ。
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