第2話
神聖ローマ帝国軍駐屯地では、団長のフェルディナントの意向で酒は飲める時間も量も厳しく管理されているのだが、今日は夜勤の兵以外には、穏やかに飲む分にはと酒が振る舞われた。
ネーリがあまりまだ酒を飲んだことが無いということは彼らは知っているので、右に左にと注ぐようなことはしなかったが、どこに行っても温かい声を掛けてもらって、ネーリはとても嬉しかった。
途中、フェリックスが外にいるようなので会いに行くと、騎士館の入り口付近に座っていた。ここは覗ける窓が近くにないので、つまらないらしい。うずくまって丸まっていたがネーリが出て行くと、ひょこ、と首をあげた。
入り口に座ると、側にやって来る。
「みんなに声を掛けてもらったよ。僕の絵も見てもらった。嬉しいね」
クゥ、と鳴いている。
可愛いなあ。
ネーリは笑って、おいで、とフェリックスの首の辺りを抱きしめて、暖を取った。
目を閉じる。
建物の中から伝わってくる、大勢の大人が笑いながら、酒や食事を取りながら、話してるこの気配。
彼らも軍人だからだろうか。
……それとも最近時折【有翼旅団】というその名を聞くことがあったからか。
ネーリは幼い頃に共に過ごした彼らのことを自然に思い出していた。
もう遠い記憶で、一人一人の顔はほとんど思い出せない。
それに時間も経った。彼らも随分今は変わっていると思う。
彼らに会った時、ネーリは彼らがそれぞれ、どこの国の人達だったかも知らないほど幼かった。
(でも、あの人達が大好きだった)
敬愛するユリウスの孫だと、本当にネーリのことを自分たちの家族のように皆が、いつでも可愛がってくれた。
竜騎兵団の人達の気配は少し、彼らに似ている。
一つの大きな志の許に集い、共に戦い、笑い合い、家族のように過ごしているから。
◇ ◇ ◇
騎士達にネーリを託し、フェルディナントは夜勤のため街へ一度向かったが、夜中に駐屯地に戻ってきた。ネーリはもう絵が無いのに薪の倉庫で毛布に包まり、フェリックスと寝ていて、フェルディナントは思わず笑ってしまった。
大勢の人間に労われて、温かく迎えられて、もしかしたら今日は一人で眠るには少し人恋しかったのかな……、そんな風に思って、優しい表情で青年を見下ろす。
ネーリはたった一人で幼い頃からヴェネトを放浪している暮らしをしていたから、多分フェリックスのこの存在感と圧倒的な熱量は、きっと寝床を感じさせるほど安心させるものなのだろうと思う。
安心した様子で深く眠っているのを起こすのも可哀想だったので、本当はちゃんとした寝台に連れて行ってあげたかったけど、仕方ないか、と思った。
フェルディナントは外套を脱ぐと、側に重なった毛布を使って、ネーリの隣に自分の寝床を作った。起こさないように気をつけて、隣に身を横たえる。
絵は完成した。
いよいよシャルタナの捜査を始めることになるから、しばらくはネーリとも離れなければならない。
ラファエル・イーシャの屋敷ならば、彼の身の安全は心配はないだろうから――この少しの自分の寂しさは、我慢すればいいものだとフェルディナントは思う。
気付かれないように、ネーリの肩に密かに頬を寄せた。
いつ目覚めても、ネーリが側で眠っていてくれてると、フェルディナントは心の底から安心できた。
もう自分は一人じゃ無いんだと、そう思えたから。
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