ガラスの中の船

スクールバックと、色付きリップ

第3話

「れーいー」




教科書でパンパンになったスクールバックを抱えて昇降口まで行くと、お団子ヘアの女の子がわたしを見つけて大きく手を振る。



ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねて両手をあげているものだから、お腹あたりの肌がチラチラと見え、近くにいた男子の視線を集めていた。




「美和(ミワ)……、待っててくれたの?」




思わずため息が零れそうになるのを無理やり飲み込みコホン、と咳をばらいをする。それから満面の笑みを作り美和の上着の裾を下へ引っぱった。



無防備というか、無自覚というか……、開き過ぎの胸元のボタンも留めてあげると、彼女は「あはは」と小さな笑みを零す。




「だって、いつも一緒に帰るじゃん。澪(レイ)」


「……そうだね、ありがとう」


「急に一人で帰るとか、寂しいしさ」


「そうだよね、ごめん」


「ううん、澪を待っていたいから待ってただけ」




美和は屈託のない笑顔のまま首を傾げ、すれ違った同級生に「バイバーイ」手を振る。



その同級生は美和に好意的な笑顔を返したけれど、隣に居るわたしを見て表情を曇らせた。




「美和……待っててくれてありがとう」


「当然じゃん~親友だし」




上履きからローファーに履き替えて、つま先をトントンと地面に軽く叩きつける。




"親友"という言葉は酷く曖昧で、わたしは嫌いだ。

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