第7話 貴族の官位
本日は官位についての講義を受けております。
講師は私の兄である中原兼平です。
「まず、官位とは何かわかるか?」
駒王丸は黙って首を横に振りました。
その様子を見ながら私は答えます。
「その人がどういう役目の人でどのくらい偉いかを示すものです。」
「ふむ、だいたいだがあっているな。
官位とは官職名と位階のことで、官職というのは国政を司る機関である朝廷ので働く官吏の役職をしめし
位階というのは地位の序列を示すものだ。
朝廷の長である帝(みかど)を頂点として、政治を補佐する摂政及び関白がそれに続く。
摂政は元服前の天皇に代わって政務を行い、関白は成人に達した天皇の補佐をするという違いがある。
これは臣下である公家の最高位で、藤原北家九条流藤原道長の子孫の一門でしめられている。
その下が正一位もしくは従一位の太政大臣、さらには正二位の従二位 左大臣、右大臣、内大臣となる。
大臣は基本的に藤原摂関家のごく限られた者しか任られることはない。」
ちなみこの辺りは西洋でいえば大公や公爵みたいなものですね。
「その下が正三位である大納言、従三位である中納言、従四位上である左大弁、右大弁、正五位上である左中弁、右中弁、正五位下である左少弁、右少弁、少納言」
納言というのは次官、弁官と言うのは補佐官です。
西洋でいえば伯爵あたりでしょうか。
従三位以上の公卿と正四位から従五位下の殿上人は、天皇の日常生活の場である清涼殿の殿上間に昇ることすなわち昇殿を許された者で、この時代の日本の総人口600万人のなかで100名以下しか居ない、スーパーエリートです。
そして六位以下五位以上では家格の見えざる壁があって、さらに四位と三位以上では高すぎる見えざる壁がありました。
平安時代では藤原と村上天皇の子孫である村上源氏の源師房流のような、貴族源氏のみが公卿になることができたのです。
しかしながら平清盛が藤原でも貴族源氏でも無いにもかかわらず、高い官位を得られたのは白河法皇の晩年の寵妃であった、祇園女御(ぎおんのにょうご)の腹から生まれたためであったと言われています。
ちなみに現在の清盛の官位は正三位大納言です。
「その下が正六位上の左大史、右大史、正七位上の大外記、左少史、右少史、 従七位上の少外記となるな。」
この辺りは三等官となり書記官です。
実質的な仕事を行っていたのはこのあたりですね。
西洋で言えば子爵や男爵あたりです。
「更にその下にも正八位上下、大初位上下、少初位上下があり、一位から少初位の10の位階をさらに細分化しているということになる」
八位以下は西洋で言えば騎士階級といったところでしょうか。
「我ら中原は朝廷で代々大外記を務めたのち我が祖父兼経は正六位下・右馬少允(うましょういん)に叙任され信濃にやってきた。」
右馬少允とは馬寮つまり国家が保有する牧場の馬の飼育や調教を行う役職の補佐官です。
更に前になりますと私達、中原氏は物部氏に連なる家系で平安中期の天禄2年(971年)に十市有象およびその弟以忠が中原宿禰姓に改め、974年(天延2年)に中原朝臣姓を賜ったことに始まりました。
要するにこの時貴族の一員である、と認められたということです。
中原の家計は明法道(法律)、明経道(儒学)を代々司る家系で外記(朝廷の書記官)を世襲し朝廷の局務家(行政官)として続いてきました。
ちなみに義風堂々で有名な直江兼続は私の兄である樋口兼光の子孫と言われています。
「そして我が父木曾中三兼遠は信濃権守だな。」
権守(ごんのかみ)というのは国司(こくし)つまり地方行政単位である国、現代でいう県の行政官で、守はその一番上、介はその次ですね。
この頃国は国力による分類として大国、上国、中国、下国にわけられ、権守は大国で従五位上、上国で従五位下、中国で正六位下、下国で従六位下です。
信濃は上国なので従五位下となりますね。
これは結構高い方なのですよ。
「我らのうちの誰かが父の跡を次ぐことになるかもしれぬゆえ、覚えておいて損はない。
良いか?。」
兄がそう言った視線の先の駒王丸は完全に居眠りをしていたのでした。
「ううむ、駒王丸にはつまらぬことであったかもしれんな。」
まあ、興味が無い人にはちんぷんかんぷんでしょうね。
「でも私にはとてもためになることでした。
どうもありがとうございます。」
私はそう言って頭を下げたのでした。
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