6-02

そしてようやく試験を終え、今日は結果が返ってくる日。

まずは数学だ。


「杉谷」

先生から名前を呼ばれ、ドキドキしながら前へ。


「今回すごい頑張ったね~」

ほんとに!?

やばい、嬉しい!

期待しちゃう…。


「えっ…本当ですか? わ、嬉しいな…」

忘れず猫をかぶって反応し、答案用紙を受け取った。

席に戻って、そっと用紙を開いた。


うそ!

点数は89点。

前回のあたしの点数はというと46点だった。

これはかなり…すごくない?


「くるみちゃんどうだった?」

隣の席のスズナちゃんがあたしに聞く。

やばい! 点数上がったときの返答スキル用意してなかった!


「えっ…? へへ…」

とりあえず曖昧に笑ったけど、完璧に答え方を間違った。

不思議そうな顔をしたスズナちゃんが、あたしの答案をのぞき込む。


「えっ!? くるみちゃんやばい!!」

見た瞬間、スズナちゃんはそう言って叫ぶ。

クラス中がこっちを見た。

そして集まってくる。


「くるみちゃんマジ!? すげえ!」

「あんなに成績悪かったくるみちゃんが…」


机を囲むようにしてみんなあたしの答案を見る。

うわっなんかこれ気持ちいい…。

頭悪くてチヤホヤされてたときの100倍良い気分…。


他のテストの結果も全部すごく上がってる。

頑張りが目に見えて嬉しい。


そして、一番苦手な日本史…。

恐る恐る開くと、67点。

前回が13点だったからかなり上がってる!!


「くるみちゃん日本史苦手だったよね!?」

「うん、恥ずかしいけど…」

「くるみちゃん天才~!」

「そ、そんなことないよ…。奏くんが教えるの上手くって…」


でも、あたしやっぱ天才かも…。

まじで嬉しい…。

なんだか、自分のことが誇らしい気分。


早く奏に知らせたい!

直接言いたくて、まだ連絡はしてない。


帰りのホームルームが終わって奏の教室に急いだ。

ホームルーム、今日ちょっと長かったけど奏まだいるかな…。

いますようにと願いながら、奏の教室に入るとみんなあたしのことを見る。


「あれっ、くるみちゃん? 王子、もう帰ったよ? 連絡来てない?」

奏のクラスの子がそう言った。

間に合わなかった…。

かなりがっかり…。


「あっ、そうだった、用事があるから先帰るって言ってたの忘れちゃってた。へへ、恥ずかしい…」

適当なことを言って笑ってごまかす。

「くるみちゃんってばうっかり~!」


そう言うその子にはにかんで見せてから、奏の教室を後にした。

教室を出たらたまたま親衛隊の子たちと遭遇。


「あれ、くるみちゃん、王子は?」

「あっ、用事あるから先帰るって言ってたのすっかり忘れちゃってたんだ」

「もう~、くるみちゃん、抜けてるんだから~。一緒に帰ろう!」

「うん!」


そんなことより奏に電話したいのに~…。

ウズウズしながらなんとか笑顔で親衛隊達と会話を続けた。

無意識にきょろきょろして奏の姿を探してしまうけど、奏はいない。


そして、ようやく駅に着いた。

「じゃあね、くるみちゃん!」

「うん、また明日ね」


やっと解放された~…。

スズナちゃんたちがいなくなったのを確認して、すぐに奏に電話。

しばらくして奏が出た。


《どうした?》

「今どこ?」

《んー、ちょっと遠いとこいる》

「なんでそんなとこいんの?」

《ちょっとな》


電話の向こうの声は少し響いてる。

マンションの廊下的なとこ…?

でもそんなことより!


「ねえ聞いて! 試験どれもめちゃくちゃ点数上がった!」

《まじか! すげえじゃん》

「へへ! 奏のおかげ!」

《いやお前が頑張ったからだろ》

「そう言うと思った~!」

《よく頑張ったな》


電話越しの声が優しい。

奏に会いたいな…。

会いに行こうかな…。


「ねえ、かな…」

勇気を出して口を開き、会いたいと言いかけたそのとき、

《奏くん! 部屋に忘れ物してたよ~》


あたしの声にかぶさるように、電話の向こうから女の人の声が響いた。

えっ…?

誰…。


《ちょっとお前静かにしろ…》

《なーにー? 電話中?》

《見れば分かるだろ!》

《はいはい。また遊ぼうね? 奏く…》


気づいたら電話を切っていた。

奏の…遊び相手の女の人…?


そっか、そうだった。

あたしがいくら好きで、距離が縮まったと思っても。


奏はあたしのことなんか好きじゃないし、遊び相手の女の子とも切れてないんだった。


あたし、ただ1人で舞い上がってただけだった…。


バカみたいだ。


結局、あたしは誰の一番にもなれない。

奏から電話がすぐにかけ直されてきたけど、全部無視してスマホの電源を落とした。

つらいよ…。

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