第13話 城門の向こうは、野菜売りのオーガ様

「よし……そろそろジープ王国の城壁が見えてくるころかしら」


 ネーラがました口調で呟き、空の青さを見上げる。

 森を抜けてしばらく歩くと、遠くに巨大な城壁らしきシルエットがうっすらと映っていた。


「おっ、じゃあ今回のデスマーチも終盤しゅうばんってわけだな……。いや、むしろここからが本番か」


 俺のつぶやきに、リンナが首を傾げる。


「デスマ……なに? またハルキの世界の言葉?」


「まあそんな感じだ。社畜の悲鳴みたいなもんだと思ってくれ……」


 リンナは「ふーん?」と納得いかない様子で、ポケットから干し肉を取り出しながら軽く肩をすくめる。

 そして、急に思い出したように俺の腕をつかんできた。


「そうそうハルキ、さっきみたいにフラフラ倒れられると面倒だから、この世界の知識くらいは早めに頭に入れときなよ」


「また偉そうだな……でも確かに知識は欲しい」


 すると、ネーラが上品に咳払いをしながら割り込んでくる。


「リンナ、いきなり『13種族』とか深いところから説明するのは避けましょう。この......方には少し難しいかもしれないわ」


「おじ様扱いですか。まだ30代ですよ、ネーラさん」


 二人のやりとりを見て、リンナがケラケラ笑う。


「うんうん、ネーラってば相変わらず辛口だね。でも、ハルキだって意外とやるときはやるんだよ」


「それ、フォローになってないから!」


 俺は苦笑しながら周囲を見渡す。

 道沿いには見慣れない鳥が飛び交い、草むらからはドワーフらしき小柄な人物が顔を出していた。


「この世界には色んな種族が住んでる。人間、エルフ、ドワーフ、獣人……まぁ挙げ始めたらキリがないけど」


 リンナが指折り数えながら言う。


「でも、基本的には人間の勢力が一番大きいかな。ジープ王国もその中心地だし」


 俺が「ふーん」と相づちを打ったその時、突然ポケットが熱を帯びた。


「うわっ、な、なんだ今度は!」


 ポケットから取り出した石が淡い光を放っている。


「ジプト、何か分かるか?」


 スマホの画面が淡く明滅し、AIの声が聞こえた。


「はーい! 石から強い魔力反応を検出! 周囲にも高濃度の魔力が流れていますね。都市部の電力網みたいなものです。まさに魔法版スマートグリッド!」


「でんりょくもう……?」


「ジプトよ、その説明ではリンナたちに伝わらないな」


「えへへ、でもボクの方がスマートっすよ!」


 リンナが小首をかしげる。


「なんか美味しそうな響きだけど、要は魔力がすごくたくさん流れてるってこと?」


「ま、まあそんなところだ」


 ネーラは鋭い視線で石を見つめ、「時間魔法に反応している可能性が高いわね」と呟く。


「時間魔法……つまり、俺が持ってるこの石が何かに反応してる、と」


 ネーラが頷く。


「この世界でも時間魔法は存在するけれど、使い手はほんの一握り。都市近くで何かが動いているのかもしれないわ」


「リスク管理的に気になるな......」


 そんな話をしているうちに、立派な城壁が間近に迫ってきた。

 門の近くは賑わっており、鎧姿よろいすがたの兵士や獣耳の人々、魔法のほうきに乗る者までもが行き交っている。


「うわ......空飛んでる。これ、どんなライセンス制度なんだ? 安全管理とか気になるな......」


「ハルキ、よそ見してるとぶつかるわよ」


 ネーラの注意に頷きながら前を向いた瞬間、巨大な影が立ちはだかった。


「う、うわぁぁぁっ!?」


 身長2メートル以上のオーガがこちらを見下ろしている。

 思わず後ずさる俺。


「あ、アンクルだ!」


 リンナが笑顔で手を振る。

 

「そんな怖い顔しないでよー。ハルキがビビってるじゃん」


 すると、オーガは照れたように頭をかき、穏やかな笑顔を見せた。


「ごめんごめん、どうも怖がられちまうんだよな。でも野菜売りが板についてきたから、つい声かけたくなって……」


「や、野菜売り......ですか」


 オーガといえばRPGの凶悪モンスターというイメージだったのに。

 俺が固まっていると、ネーラが小声で注意してきた。


「失礼よ。アンクルさんはリンナの知り合いなの。ジープ王国では、人間以外の種族も普通に生活してるのよ」


「はい、これお試しでどうぞ」


 アンクルが手渡してきたのは、まるでバケツサイズのニンジン。

 重い……。


「あ、ありがとうございます」


「気にすんな。リンナちゃんとネーラ様の知り合いなら大歓迎さ。王国を楽しんでいきな」


 別れ際、ジプトが画面で小さくバウンドしながら話しかけてきた。


「へぇ、野菜の収穫量がすごそうですね! さすがオーガさんの農園......でっかい野菜ですよ、ご主人!」


「お前まで驚くのか......」


 ネーラは城門をくぐりながら、俺を振り返ってニヤリと笑う。


「ふふ、これからが本番ですわ。驚いてばかりじゃ身体がもたないわね」


「うわぁ……俺、ちゃんとやっていけるかな。これ、完全に“炎上プロジェクト”じゃないか……」


 リンナはそんな俺の肩をぽんと叩き、「大丈夫だって」と微笑む。


「ほら、意外と楽しそうでしょ? アンクルみたいに優しい人も多いし......アタシたちで何とかするから」


 その言葉に、少しだけ心が軽くなる。


(確かに、何だかんだで一人じゃないから心強いよな……)


 ファンタジー感全開の街並みを見上げながら、俺は深いため息をついた。

 ワクワクと不安が入り混じる中、新たな一歩を踏み出すことになる。

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