第6話 森の向こうの村へ――それぞれの秘密を抱えて

「ふう……とりあえず、助かったのかな」


 ゴブリンの群れをなんとか撃退し、俺たちは森の一角で腰を下ろしていた。

 周囲には倒れたゴブリンの姿が点々としているが、リンナは特に埋葬もせず淡々としている。


「ま、ゴブリンなんてどこにでも湧く雑魚なんだけどね。こいつら、食糧や装備を奪うのが大好きだから、放っとくと人里が困るの」


 リンナは矢を回収しながら、そう言って肩をすくめた。

 俺はその光景に、少しだけ胸をえぐられるような気分になる。

 人型のモンスターとはいえ、倒された存在が無造作に放置されている……これが、異世界での当たり前なのだろうか。


「ハルキ、どうかした?」


「あ、いや……ちょっと、慣れなくてさ。現実なら通報して警察とか……あ、いや、こっちじゃそんな概念ないか」


 苦笑いして言葉を濁す。

 リンナは「それが普通だよ」とつぶやくと、空を見上げる。

 そんな俺たちをよそに、スマホ画面からジプトのアイコンがぷかぷかと浮かび上がる。


「この森から早く出たいけど、道わかる?」


「わかんねえ。ジプト、なんかルート出せるか?」


 スマホ画面に青白いホログラムが映し出される。


「魔力干渉が強いですから、完璧なマップはちょ~っと無理っぽいですねぇ。せいぜい東の方角が出口かな、くらいのざっくり情報しか出せません。ごめんねご主人!」


「東……あっちか。よし、じゃあ一旦そっちに向かおう」


 足を引きずりながら立ち上がる。

 まだ体中が悲鳴を上げているが、立ち止まっていても危険度は変わらない。

 それに、妹を救う術を見つけるためには、とにかく進むしかないのだ。


「そう。社畜的には、ここで立ち止まるのはコスパが悪い……」


 リンナは首をかしげて「しゃち……く? は?」と目を瞬かせる。


「ああ、こっちでは使わない言葉だよな……。うーん、要は、やたら働きすぎるやつって意味かな」


「なんだかよく分かんない言葉だけど、体壊しちゃ意味ないでしょ?」


「うぐっ、正論……。報連相を大事にしないと、上司に怒られるレベルの正論だ」


 リンナが怪訝な顔をする。

 その表情が可笑しくて、俺は思わず苦笑してしまう。


「まあとにかく、まずは森の外を目指しましょう。ここに長居は無用ね」


 二人で歩き始める。

 昼下がりの木漏れ日が差し込む森は、よく見ると木の幹や葉が淡く青白い光を帯びていた。

 魔力が細胞の隅々まで染み渡っているせいだろうか。

 まるで森自体が生きているような神秘的な景色に、思わず息をのむ。


「まるでゲームのチュートリアルステージみたいだな……でも、どこか不気味でもある」


 森の奥は薄暗く、湿った土の香りが強い。

 木々の根元に見慣れない青いキノコが生えているのを見つけたが、リンナは「あれ、危ない毒キノコだよ。触ると指が溶けるんだ」とさらりと言う。

 その一言で、背筋がゾッとした。


「そういうの、もっと早く言ってよ……」


「アタシはてっきり常識だと思ってたの。この森は人間たちの管理区域の外だから、他の種族の影響で特殊な生態系になってるのよ」


 リンナがケラケラ笑う。

 相手との距離感をつかむのが下手なようでいて、こういう何気ない場面で一気に打ち解ける無邪気さがある。

 けれど、ほんの一瞬だけ寂しそうな顔をしたように見えた。


「この森を抜けた先に村みたいなところがあるはずだよ。そこまで行けば、あなたの帰る方法や手がかりが見つかるかもしれないし」


「そうか……何としても見つけないと」


 妹の顔が脳裏に浮かぶ。

 時間操作の力を持ってしても、妹の病は治せるのか分からない。

 でも、何らかの手段があると信じたい。


「それに、アタシもちょっと用事があるんだ。だから、ついでにあなたに付き合ってあげる。いっしょにさ」


 リンナが視線を逸らしながらそう言う。

 変に照れた様子が、いつもの生意気な口調とのギャップで微笑ましい。


「サンキュ。心強いよ、リンナ」


 森の出口へ向かい、俺たちはゆっくりと歩を進める。

 霧がかった薄暗い道の向こうには、一体何が待っているのか。

 分からないことだらけだが、こうやって隣に立ってくれる仲間がいるのは心強い。


 ジプトのホログラムがふわりと浮かび上がり、「お二人とも、大丈夫そうですね」と安心したように言葉を発した。

 俺は頷き返しつつ、密かに覚悟を決める。


(絶対に、帰る方法と妹の治療法を見つけ出してやる。ここで立ち止まったら、俺は二度と時間を取り戻せない……!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る