第4話 死亡フラグ寸前!弓の天才少女が舞い降りた

「ふう……息が上がる……」


 森の手前で思わず立ち止まり、額の汗を拭う。

 肺がかすかに焼けるように痛む。

 会社のデスマ案件をこなした翌日と大差ないキツさだ。


「ジプト、こっから見る限り森の木、やけに色が原色っぽく見えるんだが……?」


「おそらく魔力の影響だと思うよ。葉脈に特殊なエネルギーが通っているみたいっす」


「へぇ、そりゃまたファンタジーだな。現実じゃ研究データとして特許取れそうだぜ」


 森に足を踏み入れると、空気がひんやりとしている。

 木々は異様に背が高く、葉の色が紫や青に近い。

 差し込む光が柔らかく揺れ、木漏れ日が幻想的な模様を地面に描いていた。


「すげぇ……なんだかスタジオジ○リの世界に迷い込んだみたいだ」


 そう思わず口走った直後、背後の茂みがガサリと動く。

 心臓が一瞬で高鳴り、頭の中が警告モードに切り替わる。


「ハルキ、近くに生物反応。大きめの動きです」


 ジプトの声にゾッとする。

 やばい、このままじゃモンスターとのエンカウント確定だ。


「まずはリスケ……じゃなかった、撤退したほうが得策か?」


 とっさに引き返そうとするが、足場が悪くて何度も転びそうになる。

 森の地面は落ち葉と湿った土で滑りやすい。


「ちょ、待て……慎重に行動だ。俺が転んだら意味ない……!」


 しかし、そのとき――


「グルルル……!」


 低いうなり声が、俺のすぐ横から聞こえた。

 振り返ると、そこには巨大なゴブリンのような生物が牙を剥いて立っている。

 体格は人間の倍以上、手には棍棒らしき武器……これは完全にやばい。


「うわっ、どー見ても戦闘案件だろコレ!」


「ハルキ、冷静に!」


 ジプトが警告する。とはいえ、冷静でいられたら苦労しない。

 俺は必死に後ずさるが、背中に太い木の幹が当たって逃げ場がない。


「くそっ、石は……」


 ポケットの石を握ると、かすかに熱を帯びる感覚。

 しかし、先ほどのように時間が止まる気配はない。

 どうやら連発は無理らしい。


「グオオオォ!」


 ゴブリンが棍棒を振り上げる。

 終わった……そう思った瞬間、


「上っ!」


 ジプトが叫ぶ。

 反射的に木の枝を掴んで体を持ち上げると、棍棒が地面を粉砕した。


「ひぃ……危ねぇ……!」


 わずかに体が震える。

 やばい、足がもたない。

 だが、モンスターは容赦なく第二撃を放とうとしている。


「俺……ここでゲームオーバーなのか……?」


 頭の中が真っ白になりかけた、まさにその瞬間――


 ビュンッ!


 何かが風を切る音がして、ゴブリンの顔に光る矢が突き刺さった。


「ギャアアッ!」


 ゴブリンが絶叫し、俺は慌てて地面へ降りる。

 膝が震える。今……誰かが助けてくれたのか?


 ビュンッ! 


 再び矢が放たれ、ゴブリンの胸を貫く。

 大柄なモンスターがたまらず地面に崩れ落ちる。


「す……すげぇ……」


 呆然としていると、森の奥から軽快な足音が聞こえてきた。

 現れたのは、肩に届くか届かないか程度の金髪を、左右のこめかみあたりで高めに束ねている少女。

 緑色のマントと、手にした弓が印象的だ。


「はぁ、またかぁ。今週もう3人目なんだけど……ホント勘弁してよね」


 そう言いながら、少女はめんどくさそうに肩をすくめる。

 俺は急いでお礼を言おうとするが、言葉が出てこない。

 命拾いした安堵と、少女の弓さばきへの驚きで頭が混乱しているのだ。


「ええっと、助かった……ありがとう! き、君は……?」


「アタシはリンナ。そっちがハルキ……で合ってるよね?」


 俺がスマホを見やると、ジプトが浮かび上がり、「どうやら貴女も耳がいいですね」と軽い口調で言う。


「ジプトが、さっき俺の名前呼んだからか……」


「ま、そういうこと」


 リンナは笑顔で頷き、軽く矢を収めた。

 森の静けさが戻ると同時に、俺の心臓がバクバクと再び鼓動を打つ。


「……ありがとう、リンナ。マジで助かった。俺、完全に詰んでたわ」


 リンナは俺を観察するように上から下まで見て、首を傾げる。


「ふーん、そんなに非力そうには見えないけどね。まぁアタシがいなかったらアウトだったかな」


 そう言って、にやりと得意げに笑うリンナ。

 その無邪気な表情の裏には、どこか大人びた空気があるようにも見えた。


「ご主人、リンナさんは敵意なしのようです。とりあえず安心していいかと」


 ジプトの声に俺は肩の力を抜く。


「……そっか。ホント助かったわ。あー……どっと疲れが増えたけど、これから帰る方法を見つけないとな」


「何か分かんないけど、手伝ってあげようか?アタシ、こう見えて弓の腕前は天才だから」


「お言葉に甘える……というか、今の実力を見せつけられた後だとな」


 こうして、俺はリンナという心強い仲間(?)と出会うことになった。

 何だかんだで、異世界最初の大ピンチを乗り越えたのだ。


(けど、まだ安心できない。この森、ヤバイ魔物がウヨウヨしてるんだろ? 俺、ちゃんと生き延びられるかな……)

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