せっかく異世界、後日譚
seo
読み切り
期待してたけど邪魔が入った件
本編最終話当日
語り手>ハーバンデルク第二王子のアドバス
「モード、参上いたしました」
室に入ってきたモードは、胸に手をあて首を垂れているものの、声には怒りが含まれている。
「何を怒っている? 楽にしていいぞ、私しかいない」
とりあえず言葉を崩せと伝える。
「では遠慮なく。用件はなんだ? 早く言え」
久しぶりの友に対してその態度はないだろう。
「お前っ。まぁいい。……婚姻祝いは何がいい?」
婚約したことも人を介して聞いた。挨拶にくるかと待ち続けたが、そのうち聖女行脚に参加した。彼女のいうことを間に受けて、モードが来るのを待っていた自分が間抜けだった。
数日前、空を魔物が埋め尽くした。高位の魔物たちだったようだが。王族には通達があったから何があったかわかったけれど、知らない民たちは世界の終わりが始まったのかと、恐ろしい夜を過ごしたという。
封印されたいにしえの聖女の解放。封印された魔王だと思っていたのは、本当は召喚された〝聖女〟だったとは……。いにしえの聖女は、自分と同じように誰かが二度と
聖女召喚は書物がなくなっとされても、ひそやかに研究されてきたことだ。過去の書物を漁り、また召喚に関わった魔術師の子孫の話をまとめ、多くの国が進めてきたこと。けれどそれは長い間、実現できることはなかった。
アルバーレンが聖女を召喚するまでは。アルバーレンの年若い王子はどうやって聖女召喚を完成させたのか……。
その王子が断言している。正真正銘、現在の聖女が最後の召喚だと。なぜなら魔術で召喚が極められても、〝聖女〟となることのできる異界の因果律がこの世界と二度と交わらないからだそうだ。召喚には因果律が深く関わってくるそうだ。異界と噛み合う因果律を見つけ出すことが何より難しく、聖女のいらした異界とは交わることがないという。
聖女の封印は難なく解けたそうだが、その後アルバーレンのお家騒動に発展し、現場は混乱し、聖女も何日も眠ったままだったという。
陛下から、その現場にいたモードに詳細をと言われ、私はモードを呼び出した。もちろん詳細を聞くことを忘れてはいないけれど、友の婚約を祝いたい気持ちが強い。
仮にも王子である私に対して良いとは言えない態度だが。
顔を上げてモードを見ると、苛立ちを抑えた形相だ。
「こ、婚約することも言わずに。それでも祝ってやるって言ってるんだぞ、なぜ怒るんだ?」
「お前、今日が何の日か知ってて呼び出しているのか?」
威圧が強くなる。
「は? そんなの知るわけないだろう? なんだ、特別な日なのか?」
モードは大きなため息をついた。
「結婚してから、初めて家に戻った」
結婚した? 婚約だけでなく?
「そんな時にお前からの手紙が来てるとだなー、馳せ参上したわけだ」
「……まさか、初夜か?」
な、なんてタイミングの悪い。
「悪い、悪気はなかった。婚約し婚約者と顔合わせしたから、お前は私に報告しにくると思っていたのに。話さずに聖女行脚に同行してしまうし。家に戻ったら申し開きをしろと手紙を出したんだ。まさか、結婚してから初めて戻ってきて、共に暮らす日に」
「それじゃあ、特に用はないんだな?」
「待て、今からキトラさまで帰っても、着くのは夜遅くになるだろう? それから食事をしてとティア嬢も大変ではないか。手紙を送ってやるから、今日は王宮に泊まっていけ。明日改めて初夜をしなおせばいい。街で贈り物や花を買っていけばティア嬢も喜ぶだろう」
そう提案すれば少し心が動いたみたいだ。
やっと椅子に座った。
ベルを鳴らして、酒とつまみを用意させる。
モードは豪快に皿からナッツの詰め合わせを鷲掴みする。
それを口に入れた。
「酒は?」
「今飲んだら眠っちまう」
「眠ってないのか?」
「ティアが怪我してね。看病してたんだ」
「怪我? 大丈夫なのか?」
「ああ、幸い怪我は治った」
モードは苦笑い。
大丈夫だとはわかっていても、不安が拭えないと笑った顔は、私の知らない顔だった。
ああ、本当に、こいつは愛する人を見つけたんだな。
「お前、シャルロット王女とはどうなったんだ? 本気だったろ?」
「な、なんでそれを……」
「だってお前、真剣に留学したがってたじゃねーか。兄上が体調を崩されてなし崩しに終わったけど、もう全快されたんだろ?」
知ってたのかよ。あの時何も言わなかったくせに。
「知ってたのかよ?」
「知ってるぞ。マリー公爵令嬢を隠れ蓑にシャルロット王女に首ったけだったことぐらい」
なっ!
「お前、何にも言わなかったじゃないか!」
「そりゃお前、噂になった途端、あることないこと言われて周りを固められるだろ。だから、お前も言えなかったんだろ?」
その通りだ。
「バレていたとはな」
熱い液体を体に流しこむ。
「王女はもうすぐサルベードの王子と婚約する」
モードは黙ったまま、琥珀色の液体を口に流しこんだ。
そしてポツンと言った。
「いいのか?」
「いいも何も……それが彼女の選択。婚姻ってのは機が重要。私はその機を逃したんだ」
「お前のその気持ちは言ったのか?」
「え?」
「女は言葉にして欲しいんだとよ」
「ええ?」
「言わなくてもわかるだろうというと、ティアは怒るんだ」
「あのティア嬢が?」
モードは頷く。
「草原で会ったと聞いたが、本当にそうなのか?」
「あ? ああ。あいつと会ったのは草原だ」
「どんな出会いだよ!?」
「キトラが連れてきたんだよ。新芽のような柔らかい翠色の大きな目に俺を映した」
「それだけで参っちゃったのか?」
モードは気持ちよく笑う。
「そうとも言えないけど、そうかもしれないな。いつ、どうハマったのかなんて、俺自身もわからない。けれど、いつの間にか自分より大切になっていたんだ」
そう言って、氷をカランと揺らす姿は、いやに男の私にもカッコよく映る。
「お前、カッコいいな」
「嘘はつかないからな」
その言葉は胸にくる。
「自分に嘘はつくな」
兄上に言われた。もう大丈夫だからと。
弟に言われた。兄上を支えるのは俺もできる、と。
あれはそういう意味だったのか……。
もう、すべては遅いけど……。
けれど、嘘をつき続けていては、私は前に進めない。
「さて。酒ももらったし、俺は帰る」
「え? 泊まっていくんじゃないのか? 今帰ったら家に着くのは明け方になるぞ」
「一刻も早く、嫁に会いたくてね」
「お前がそんなことを言うとはな。同窓生に聞かせてやりたい。みんな口を開けて驚くだろう」
「ははっ。そりゃ愉快かもな」
こいつこんな冗談いうやつだったか?
「聖女行脚の詳細を聞くのが目的じゃなかったのか?」
お見通しか。
「……婚姻祝いは何がいいか、聴きたかったのも本当だ」
「それなら、しばらく声をかけるな。俺は新婚だ! わかったな!」
モードは立ち上がる。
「わかったよ。そのうち、聖女行脚の話は聞かせてもらいたい。騎士たちの調書の方が厄介だと思うから、私に話す方が多分いいぞ」
モードは肩を落としている。
「そのうちな」
「それでいい。私もしばらくサルベードに行ってくる」
モードは笑った。
「……振られたらとことん酒をつきあってやるよ」
全くなんて言い草だと思って顔をあげれば、扉がバタンと閉まるところだった。どれだけ嫁に会いたいんだ。
私は苦笑するしかなかった。
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