フィッティング

「おっちゃん以外には話してないんや」

「手術のことも?」

「そや。簡単なもんやしな。後はリハビリがどうかわからんねん。すぐ歩けるんかしばらくかかるんか。そやから花火大会は約束できん」

「あ、そうなんや」考えすぎていたのかもしれない。「もし行けたら行ってくれる?」

「行きたいやん。来年はわからんし」

「わたしと?」

「嫌ならええけど」

「誘ったのわたしやん。着物着ていくねん。そやから今から誘うてるんや」

「俺、着物ないで。浴衣か?」

「わたしとこは代々の呉服屋やで。後はわたしに任せてや。もうブツもあるねん」

「やっぱ絶対パンツ見えてるぞ」

「見せパンやからええわ」機嫌が良い。

「そういう問題かな。見せパンでも食パンでも見せようとして見せたら品がないやろが」

 響がリュックをゴソゴソしてジャージのシャツを引き抜いて、琴絵のリュックと足の間に挟んだ。安心できるだろうと憮然とした。

 親の計画は裏目じゃないか。

「おまえもし俺が休んでたらみんなに見せながら通学してたんか」

「休まんのわかってたから」

「何で」

「アーニャ、スパイだから」

 琴絵は何となく声を真似てみせた。琴絵の両隣と響の両隣が目を逸らした。見るのではなく逸らされるのは意外にきついものがある。

「なあなあ。響、見捨てんといてよ」

「いろいろ怖いわ」

 

 放課後、祖母が迎えに来てくれた。さか屋呉服店のハイエースでやって来た。もともと酒屋をやっていたのが呉服店に商売替えしたのが江戸末期から明治にかけてらしい。

「ひびちゃんも乗ればええわ」

 琴絵は祖母が職員駐車場に押し込むように停めたハイエースの後ろの座席に響を引きずり込んだ。狭い道をマニュアルで減速と加速を繰り返しながらショッピングモールへ。

「おばあちゃん、今朝約束したんやけど」

「さすが孫娘や」

「だからもう下着選ぶ理由がない」

 と言いたいが買ってももらいたいし、なぜ勢いで響を拉致したのかと自己嫌悪に落ちた。「響、本とか見たいものある?」

「ひびちゃん、今夜は晩ごはんお好み焼き食べて帰るで」

「ごちそうさまです。今日は何かの記念日とかか?」

「嫌、特に」

 祖母に来いと言われるまま、琴絵は響を遠ざける方法を考えつつモールを歩いた。

「あかん」

 琴絵は売り場の前で諦めた。

「響、言いたいことある?」

「マジで下着買うんか。てか何で連れて来られたんや。俺、本屋で……」

「二人ともおいで。そこで二人で立ってる方がおかしいんや。そもそもあんたが欲しいいうこら連れてきたんやで」

 祖母はさっさと話を進めた。

「孫娘やねんけど、上下セットで選ぶの手伝うてあげてほしいねんけど」

「お任せください」

「幼馴染みの好みも聞いてあげてな」

「仲のいいことで」

 祖母はモールにあるチェーン店てコーヒー飲んでくると姿を消した。琴絵は腋とうなじから汗が流れ落ちてくるのを感じた。響は覚悟を決めたような格好で、試着室の隣にあるベンチで膝に肘を置いて腰を掛けていた。すでに敗北して燃え尽きたボクサーのようにも見える。

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