セーラー服論
「ただいま」
引き戸をカラカラと開けて閉めた。白髪の祖母、菊代が玄関まで来て「後ろ手なんてはしたない」と軽く一喝してきた。上がり框でローファーを整えると、頭を撫でてきた。
「よろしい」
「どうも」
「ひびちゃんは?」
「帰ったで」
「花火大会は誘えたんか」
「来るんやないかな」
リュックを勉強部屋と化した仏間の畳に滑り込ませて、キッチンというか昭和のザ・台所に入ると、冷凍庫からあずきバーを出した。
「OKもらえんだんやな。何で帰してん」
「何でと言われても」
「確約もらわんまま帰してどうするねん。あんたは一人でアイス食べたいんか?」
「一人占めしたいわけでは」あずきバーをくわえたままスカートのホックを外した。「お母さんは?」
「良子は買い物や。アイスが半額らしい」
「マジで?」
「言葉遣い」
「すみません」
硬いアイスを噛んだ。
「暑い」セーラー服のファスナーを開いてリボンごと脱いだ。「まだ六月やのに何でこんな暑いんやろうか」
「あんた何してるねん」
「え?」琴絵はハンガーに掛けた。「これでよろしいですか」
「わたしはそんなこと言うてない。何でそんなん着てるんやと言うてるんや」
「これは」
祖母は汗を吸い、涼しくしてくれるシャツのことを話しているのか。それともショートパンツのことを話しているのか。祖母はシャツをつまんで引っ張ると、溜息を吐いた。
「シャツ?」
「何でセーラー服の下にシャツ着てるんやと言うてるねん。もうこの孫は」
「どうしろと」
「セーラー服がブレザーに勝ってる点は一つしかない。裾からお腹チラ見せできるところだけやん。みずから放棄してどうするねん。見えるのがええんや。そんなん着てたら、ひびちゃん誘えるわけないやんか」
「ええ〜」
畳に座らされた。祖母は正座をしてビシッと決まる。琴絵もビシッと決めたいがあずきバーが邪魔をした。格好も格好だが。
「スパッツなんてはしたない」
「電車通学やから自衛せなあかんやん」
「みっともない。自衛?ひびちゃんと通えば守ってもらえるんやで」
「お言葉ですが、おばあ様。もう令和は女も自立する時代なんです」
「ああ」祖母は畳をピシャッと叩いた。「何て情けない孫なの。わたしの祖母は戦後を一人で生き抜いて家族を守ったのよ。今の若い子は二言目には自立自立とうるさいわね」
七分丈のパンツに鯛の図柄のラフT着ている人に言われたくはない。
「ひびちゃんと行きたくないの?二人でりんご飴食べたくないの?たこ焼き食べさせあいしたくないの?キスしたくないの?ところで手くらいは繋いだことあるの?」
「仲良しだけどそんな関係では」
「もしかしてわたしの孫は男女の友情があるなんて信じるほどメルヘンしてるの?」
「あ、あるわよ」
「アホたれがっ!」
あずきバーのカケラが落ちた。祖母はつまみ上げると口に入れた。
「汚い」
「わたしが掃除してるねん」
「す、すんません」
「あの親にしてこの娘ね!」
辿ればあなたは生みの親ですがな。なんて言えば百倍くらいで返されそうだ。帰ってきて捕まるとは。こちらの部活も休みで二人で帰ってこれたのにと棒をくわえていると、車の音が聞こえてきた。母が帰ってきたのだ。
「おかえりなさい」
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