第2話  自分の道を進む決意

その後、しばらくの間、二人は無言で過去の思い出に浸っていた。部屋の中には、懐かしい空気が漂い、自然と会話が途切れることはなかった。拓巳は、久しぶりに感じたあたたかな絆に心が満たされ、心の中で何かが変わり始めているのを感じていた。


雪は、拓巳が心の中で葛藤していることに気づいていた。彼の目には、自分を押し殺すような不安がうっすらと浮かんでいたからだ。しかし、それでも彼が自分の夢を追いかけ続ける力を持っていることを知っている雪は、彼の背中をそっと押すように言葉をかけた。


「拓巳、もしかしたら、今が一番難しい時かもしれないけど、これからが本当の意味でのスタートだよ。私は、あなたが音楽を続けることを応援してる。だから、もう少しだけ、自分を信じてみて。」


拓巳は少し驚いたように雪を見つめる。彼女の言葉は、ただの慰めではない。雪の目には、真摯な信頼が込められていた。拓巳はその信頼に、ふと胸が熱くなるのを感じた。


「ありがとう、雪。俺、まだ自信が持てないけど、少しだけ前に進んでみるよ。」


拓巳の声はどこか軽く、けれども決意を感じさせるものだった。それでも、彼の中にはまだ不安が残っているのだろう。その不安が拭いきれないことも、彼自身がよく理解していた。しかし、雪が言ったように、今がその一歩を踏み出す時だと感じていた。


「でもさ、雪はどうなの?」拓巳はふと、彼女に問いかける。「雪だって、ずっと自分の道を歩んでるだろうけど、何か不安に感じることとか、ないの?」


雪は少し考え込み、そして静かに答えた。「私もね、ずっと迷っていたよ。自分の仕事が本当にこれでいいのか、ずっと自信を持てなかった。でも、今は少しずつ自分のやりたいことが見えてきて、少しずつ形になりつつある。」


拓巳は驚きの表情を浮かべた。「雪が迷っていたなんて、想像できないよ。」


雪はにっこりと微笑んで言った。「外から見ると、完璧に見えるかもしれないけど、誰だって心の中には不安や葛藤を抱えてるものよ。それでも、やりたいことを追い続けることで、少しずつでも前に進んでいけるの。」


拓巳はその言葉に深く頷いた。雪の話を聞くことで、自分もまた前進する力を得たような気がした。彼はギターを再び手に取ると、少しだけ力強く弦を弾いた。その音は、少しの躊躇を超えて、確かな一歩を踏み出すための勇気を象徴するかのように響いた。


「俺も頑張るよ。自分のために、みんなのために。」拓巳はつぶやいた。


雪は静かに微笑んだ。彼女の目には、拓巳がこれから歩む道に対する期待と信頼が込められていた。


その時、部屋の扉が軽くノックされた。二人は振り向き、ドアが開くのを待つ。新たな一歩を踏み出す準備が、少しずつ整ってきているのを感じながら。

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