第8話 冒険の終わり

「ロンゼル殿。どうか……」


「……」


 メルフェリアの処刑が執行される前日。その男は、酒場に来ていた。


 彼はメイランド国の宰相であり、メルフェリアが幼い頃から面倒を見てきた臣下であった。


 白い顎髭を床に擦り付け、つい先日まで主と同行していた男に懇願を示している。メルフェリアを救い出して欲しいと、ロンゼルに頭を下げていた。


 帝国に逆らえばどうなるのか重々承知の上で、彼に反逆者になれと頼みに来ていたのだ。


 正直、無謀も無謀。帝国の武力や執念深さを考えれば、仮にメルフェリアを助け出せたとしても、その後待っているのは過酷な逃亡生活と、残酷な最期。


 それでも、この臣下はほんの僅かな希望に縋るしかなかった。


「ふざけるな。帰れ」


 酒場の荒くれ達が見守る中、一蹴するロンゼル。


 その後、何度も言葉を変えて懇願するが、結果は変わらなかった。


「……申し訳ない。ロンゼル殿。女王様が、姫様が、大変世話になった。心より、礼を申し上げる」


 大量の礼金と仄かな笑みを残し、臣下は去って行った。


 祖国へ帰る彼の足は、まるで鉄球を何個も引きずるような重さであった。






 ―――






「素直じゃねぇな。お前も」


「まぁな」


「……元気でやれよ。俺達は、何時でもお前らの帰りを待ってるからよ!」


「……」


 荒くれ達の、歓声が轟く。


 ロンゼルは小さな苦笑を漏らし、酒を呷った。

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