第2話 ぼたんの相談

 学校からの帰り道だった。


 ふと道路沿いの電信柱を見ると、ぼたんの目に奇妙なものが飛び込んできた。


 目。


 目が、たくさん貼ってあるのだ。

 おそらく、誰かの写真を切り取ったような、そんな代物だった。


(なにこれ……気持ち悪い……)


 しかし、どこか見覚えがある。

 妙に気になり、しばらく見ていると、あることに気が付き、総毛だった。


「これ……私!?」


 当たり前だ。

 見覚えがあるはずだ。毎日鏡で見ている自分の目だった。


「やだ……なんで!?」


 ぼたんは、気味が悪くなり、その場を去ろうとした。

 しかし、他人ならともかく、自分の目だ。

 結局、むしる様に全部はがし、コンビニのごみ箱に投げ入れた。


 その晩の事だった。




 ベッドに横たわっても、妙な違和感が消えない。


「誰があんなことを……」


 静まり返った部屋の中で、ぼたんはひとり呟いた。

 ふと、部屋の隅の方から視線を感じた。

 誰かに見られている――そう思い、ゆっくりそちらを見てみるが、もちろん誰もいない。


「気のせいだよね……」


 自分に言い聞かせながら布団を被ったその時、机の上に置いたスマホの画面が光った。通知が届いたのだ。恐る恐るスマホを手に取り、画面を見ると、差出人不明のメッセージが一つ。


『見ているよ』


 ぼたんの手が震えた。さらに、続けざまに別のメッセージが届く。


『見てくれたね』


 ぼたんは息を呑む。画面に映る文字はどれも短文だったが、冷たく、しかし執着のような感情がにじみ出ていた。


(なにこれ……誰?)


 恐怖に駆られながらスマートフォンを強く握りしめる。その瞬間、部屋の隅がカタリと音を立てた。ぼたんは反射的にそちらに目を向けた。


 そこには――男が立っていた。青白い顔で粘着質な笑みを浮かべている。

 その目で、じっとぼたんを見つめているのだ。


「きゃあっ!」


 悲鳴を上げると同時に、ぼたんは鏡に背を向け、部屋の外に飛び出した。廊下に出ると、両親がその悲鳴を聞きつけ、寝室から飛び出してきた。


「ぼたん!どうした!?」

「あそ…あそこに……男の人が……!!」


 鏡を指さし、両親に訴えた。

 ぼたんの父親は血相を変えて、部屋へと向かったが、しばらく部屋を見渡し、窓の施錠も確認して戻ってきた。


「本当にいたのか? 窓も締まっているし……」

「本当だってば!!!」


 悲鳴に近い声でぼたんが答える。

 その日は、一人で寝れず、久しぶりに両親と一緒の部屋で寝た。



 だが、それからだった。

 毎日のように、同じことが起きるのだ。


 両親も終いには、いい加減にしてくれと言わんばかりになってきた。

 ぼたん自身も、精神的な病気や、その他いろいろな理由を考えたが、リビングで寝ようとしても、友人宅に行っても、同じように『それ』はやって来るのだった。


 精神的にも、肉体的にも参っていたころ、見かけたのか『仏原心霊相談所ほとけばらしんれいそうだんじょ』の張り紙だったのだ。

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