邂逅
『今日午前、住宅街の一軒家の中で指定暴力団“炭蛇組”の組長及び組員が惨殺される事件が発生しました。警察は殺人事件の疑いがあるとして現在も捜査中です』
街頭ビジョンのニュースを聴きながら、神津は血塗れのまま歩いていた。
ただ、無造作に目的もなく都市の中を彷徨っていた。
組を壊滅させた神津には、少しばかり異変が生じていた。
死んだ魚のような目が血走り、刀の鞘を握る右の腕からは紫色の煙が噴き出ていた。
彼は歩く。
何の為に?
“人を斬る為に。肉を削ぎ、骨を断つ為に”
嘘だ。そんな事思ってなどいない。
頭の中で何かが“斬れ”と騒いでいる。
パトカーのサイレンがうるさく鳴り響く中、明かりの少ない街路樹の並んだ通りを彷徨うよっていた。
斬れ、斬り殺せ。
まるで何かに取り憑かれたかのように呻いている。
斬れ、斬り殺せ。
「くっ……」
それだけが彼の頭の中を支配していた。
そんな神津の視界に、次の獲物が見えた。
古びた街頭に照らされていた、ブレザーの制服の少女。
白い肌に首元ぐらいまでの短い黒髪。
銀色フレームの眼鏡の向こう、赤い瞳が神津の方を見ていた。
「お兄さん、相当な手練だね。それなのに、このまま呪いに
少女は徐々に間合いを詰めていく。
言葉に応えるのもままならない。
斬る。殺す。斬り殺す。
神津の理性はとっくのとうに失われていた。
女子供を斬らないという彼の信条は、既に幾多の“声”の中に埋もれてしまっている。
抜刀。それが神津の解答だった。
まるで鬼の如き形相で、静かに刀を構える。
その行動の端々から殺意が漏れ出ている。
紫の煙はやがて、紫炎に変わる。
神津は、アスファルトを蹴った。
紫電ならぬ紫炎一閃。血で錆びついた刃が少女目掛けて滑り込んでいく。
だが、少女は襲いかかる刃に恐れる事なく、前だけを見ていた。
「グランイコル、
そう言って、少女は胸に手を当てる。
彼女の言葉と共に胸の中心から、赤い柄が飛び出す。
少女はそれを掴むと、心臓から引き抜かれた紅の直剣が、血飛沫と共に現れた。
赤光と紫炎がぶつかる。
幾度も、刀を打ち合い、剣戟の音が人気のない夜道に響く。
少女の剣は、名状し難いものだった。
形こそただの直剣だが、剣が交わる度に徐々に本性を見せている。
剣というよりは肉食獣の“
少女がひとたび振るえば神津の内側で増殖していた“声”もたちまち恐れ慄き、刀を振る力が奪われていく。
だが、神津は血剣による力の簒奪を己の根性のみで耐えていた。
「グラちゃんの攻撃を受けても立ってる……?」
神津の潜在意識が、己の敗北を拒んでいた。
“斬れ”と言う声こそは消えたが、身体は未だに闘争を求めている。
ただ、それだけの事だった。
神津を焼く紫の炎は、未だ燃え尽きず。
むしろその幻想的な煌めきを増していた。
「自我が、呪いを乗り越えようとしてる……」
少女は目の前の人間の異常性にただただ驚嘆しか出なかった。
だが、神津はそれ以上動かなかった。
というより、動けなかったのだ。
理由は単純。
立ち続ける以上の気力が無かった。
反撃も出来ないまま、神津は虚しく倒れてしまう。
戦闘を終えた少女が近づき、血剣の切先をうつ伏せの神津に向ける。
「グラちゃん、喰べて」
すると、赤い剣は縦に大きく割れて顎を開き、神津を呑み込んだ。
血剣は己の刀身をもごもごと震わせ、ごくりと嚥下した後にそのまま動かなくなった。
少女は小さなため息を吐いて血剣を自らの心臓に収めようとすると、突然血剣が震えだした。
刀身を悶えさせ、数回身をよがらせると血剣は地面に神津を吐き出した。
「……」
赤い粘液に塗れて動かない神津を見下ろして、少女は大きなため息を吐いた。
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