第107話 とある少女の独白(3)
眼の前には、街が見えました。
そう。ここは、ダンジョンの入口付近。
__こんなところに
最下層からの、転移魔法陣が、設置されていたなんて……。
わたくしは、生きて帰ることができたのです。
それも、あのダーク・スライムに導かれて。
あのスライムは、外に通じる転移魔法陣の
「ひ、姫さまーーーっ!」
お友達が、泣きながら、抱きついてきました。
わたくしが、かばってあげたお友達です。
「よがったーーー。ほんとに、よがったーーーー」
わんわん泣いています。
「まさか、あの罠から、ご帰還なさるとは。
さすが、姫さまでございます」
執事まで来ていました。
お父さまの代わりに、来てくれたのでしょう。
「彼のお陰です。わたくしひとりでは、帰ってこられませんでした。
彼は、わたくしの命の恩人ですわ」
隣に立つ男子を、見上げました。
明るいところでみると、なんとも無愛想で、ひどく目つきの悪い方でした。
でも、わたくしは知っています。
彼が、どれほど、やさしくて明るい少年であるのかを。
「まあ、そう、大げさに考えるな。
オレだって、かわいいペットを、拾ってこられたんだから」
「拾った? かわいい?」
本気で言ってるのでしょうか?
ええ。そうですね。
彼は、本気です。
『ダーク・スライム』すら、彼にとっては、かわいいペットなのですから。
「めずらしいですね。シュウ。『白いスライム』なんて」
さりげなく、彼に寄り添ったのは、女神かと疑うほどの美貌のエルフでした。
わたくしは、おもわず、彼女の薬指の輝きに、目を奪われました。
__
それは、彼と同じ指輪でした。
彼とは、そこで別れました。
ていうか。彼は、さっさと、この場を後にしました。
もう、ここにいる理由はないとばかりに。
わたくしは、クラスメートに囲まれ、奇跡の皇女と讃えられました。
こんなことを考えるのは、間違っているに違いありません。
でも、どうしても考えてしまいます。
この中に、わたくしを、真剣に助けようとしてくれた人がいたのか、と。
そんな思いが、伝わってしまったのでしょうか。
執事が、耳元でささやきました。
『姫さまが、ご友人をかばって、罠に落ちたと聞いて。
あの少年は、自分から、『罠』に飛び込んだのです。
でも、落とし穴は、どうしてもイヤだと言って、転移罠にしたのですよ。
しかし、なぜ、転移罠が、落とし穴につながってるとわかったのでしょうな』
そういって、執事は、首をかしげていました。
__では、最初から
彼は、わたくしを助けるために、あの死地に来たのですか!
そんなことは、ひとことも言わなかったのに……
わたくしは、思わず、彼の背中を探しました。
__彼は
「きゅっ!」
「がうっ!」
白竜と白狼に、こっぴどく噛みつかれていました。
おそらく、ヤキモチなのでしょう。
彼の頭上には、真っ白なスライムが、すやすやと寝ています。
先程、彼が取り出した。
『赤いベスト』を着せられて。
わたくしは、思わず、笑ってしまいました。
可笑しくて、嬉しくて、涙がとまりませんでした。
*
(Side???)
「ダーク・スライムまで、まんまと拾ってくれるとはのう。
まったく、シュウは、期待を裏切らないオトコじゃな」
「皇女が、罠に落ちた時は、さすがに肝が冷えたけどよ。
まあ、結果オーライってとこか」
「アレは、間が悪かったとしか、言いようがないわ」
「ごくごくまれにいるのですわ。
最初に罠を踏んだ少女のように、やたらと引きの強い者が」
「でも、あのダーク・スライムは、かわいそうだったのじゃ」
「そうですね。あの子は、ちょっと進化しすぎましたからね」
「たしか……。光まで食べる、という話でしたかしら?」
「いやいや。さすがに、それはねえだろうよ」
「どちらにしても、あの時は、地の底に閉じ込めるしかなかったわ」
「ほんとに、かわいそうだったのですぅー」
「めったに、ニンゲンも落ちませんでしたしね」
「その、落ちなくて残念みたいな言い方も、どうかと思うぞ」
「でも、落ちてくれないと、食べるものがなかったのですぅ」
「ほんとうは、お友達として、迎えたかったのでしょうね」
「でも、食べるしかなかったわけだ。哀れな話だぜ」
「よく、今まで、生き延びていたのですぅ?」
「あのダンジョンは、とうぜんじゃが、龍脈の上にあるからのう。
そこから魔力を吸って、なんとか生き延びていたのじゃ」
「でも、これからは、きっと、シュウがかわいがるでしょう。
古代竜たちと同じように」
「そうですわね。シュウなら、安心して任せられますわ」
「けどよ。あの真っ白に進化したのって……」
「シュウのちからでしょうね。
彼は、すでにヒューマンではありませんから」
「ええっ!もしかして、わたしたちに、かなり近い存在なのですぅ?」
「しらばっくれても、ダメですよ。セレネ。
彼を蘇生したときに、いったい、何をやったのです?
わたしたちが気づいていないとでも、思ったのですか?」
「な、なんの話なのですぅ。ちっとも、わからないですぅ」
「てことは、女神の相手もできるってことか?」
「まあ、とうぜんでしょうね。むしろ、ヒューマンではたいへんだと思いますよ。
ハイ・エルフであれば、わたしたちに近いので、大丈夫でしょうが」
「そういうお話は、やめてくださいまし!クーちゃんも聞いているのですから」
「何を言ってるのじゃ! わらわが、どれだけ生きてると思ってるのじゃ。
幼子のように扱うのは、やめるのじゃ!」
「どちらにしても、シュウの庇護下にいる限り、大丈夫でしょう。
シュウの魔力を吸収していれば、それで十分に満足するでしょうから」
「片っ端から、食い散らかす必要がなくなるってわけか」
「でも、シュウのほうは、大丈夫なのですぅ?」
「まあ、多少は、ちからが落ちるじゃろうな」
「多少で、済んでしまうこと自体が、異常なのですけどね」
「そうか? そうとばかりも言えねえと思うぞ」
「どういうことですの?」
「負荷を与えれば、いっそう、強化されるってことさ」
「「「「…………」」」」
「ま、まあ……、いいじゃろう。シュウなら心配はいらん」
「そ、そうですわね。権力などには、まったく興味をしめしませんもの」
「ハーレム願望すらないのですぅ」
「ただの変態ですからね」
「それも、そうだな。じゃあ、今度はよ。
チア・ガールの格好で、ハイキックとやらでも、見せてやるか?」
「「「「え…。それはちょっと……」」」」
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