さらば薔薇色の人生よ

ジャック(JTW)🐱🐾

ステージ・ショーの幕は上がる

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もっともっと安くしろギブ・ミー・ア・ディスカウント!」


 脂ぎった中年の男が叫ぶ。中年の男は真っ赤な薔薇色の帽子とパツパツのスーツに身を包んでおり、胸にはギラギラと輝く一番星のバッジが輝いていた。これは一等市民ハイランクの身分証である。

 そして見世物小屋ラット・シェッドのオーナーたる証でもあった。詰め寄られた業者の男は、トレードマークであるペストマスクの下でため息をついた。


「オーナー様、そうおっしゃいましても……必要なオプションを可能な限り削っても、この単価が限界です。これ以上となりますと危険な……」

「――腐ってもこの世は金だ! 金なのだ! 金がなければ、わしが一等市民ハイランクで居続けられないではないか!」


 間近で中年男の唾を浴びせられた業者の男は、辟易しつつ唾をハンカチで拭き取りながらオーナーの説得を試みた。

 

「仰ることは御尤もです、しかし……」

「しかしも案山子かかしもあるか! いいから値下げディスカウントだ!」


 押し問答に疲れた業者の男は、鞄の中から契約書コントラクトをオーナーの目の前に提示した。


「現在お申し込みいただいている内容としましては、毎月五十体のの納入及び、クローン製造に係る諸経費及びオプション付与の手間賃を含めてしめて――」

「ああ、五月蝿うるさい五月蝿い。結論を言え」

「…………つまり、オーナー様のおっしゃるとおり、発注単価を下げるためには、必須オプションの削除が必要となります。本契約は今月末まで有効となりますので、発注単価が下がるのは翌月からということになりま――」

「ああ、いい、わかったわかった、オプションなんぞ使わん、外せ」

「……畏まりました。では、署名サインを」

「チッ」


 オーナーは苛立ちを隠しもしない表情で、雑な署名を書いて業者の男に投げ渡した。業者の男は投げ渡された契約書コントラクトを器用に受け取り、古めかしい鞄の中に仕舞った。


「オーナー様のご希望としては、大幅な値下げディスカウントがご希望ということでしたね」

「そうだ、そうだ、値下げディスカウントだ」

「その場合でしたら、方法がございます」


 オーナーは半額という言葉を聞いて目を輝かせた。脂ぎった唇をにやりとまくり上げて、酒臭い息を吐く。


「そォれだ! そういうのがあるなら早く言え、無能が」

「……では、ご提案いたします」


 クローン製造業者の男は、唾をハンカチでふき取ったあと、鞄の中から細かい文字が微細に書き込まれた極彩色のチラシを取り出した。その隣に、極上な赤ワインを添えて、オーナーに向けて差し出す。


「――こちら、DNAことで、半永久的な値引きを実現できるプランとなっております」


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 契約成立時にサービスで受け取った薔薇色の赤ワインは上質で、スルスルと飲みやすく口当たりがよかった。赤ら顔のオーナーは上機嫌でワインをがばがば飲んでゆく。


「ヒック……ああ、こりゃいい! まさに最高の勝利の美酒フルーツ・オブ・サクセス! やけにサービスがいい、タダにしてくれりゃ言う事ねえんだがな!」


 ワインの瓶を口にくわえ、喇叭らっぱ飲みでぐびぐび飲み干した。

 だらしなく涎を垂らしたオーナーはアルコールで赤らんだ顔で愉快そうに笑い、隠しもせずにげっぷをした。


「……ゴネればゴネるだけ値下げディスカウントするなんて、馬鹿のやるこった。はは、一等市民ハイランク万歳! 一等市民ハイランク以外はみんなカス! くたばれ! ざまあみろ……ヒック……」


 悪態をつき終わったオーナーは、趣味の悪い真っ赤なソファの上にだらしなく寝転がるといびきをかきはじめた。


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