第26話 冒険者ギルド登録試験

 その後は問題なくペセタまで行くことができた。


 ペセタは城塞都市だ。スタンピード対策として城壁に囲まれている。

 街に入る際に簡単に身分を改められる。

 サルバトールからギルドカードがあれば問題ないが、なければ入場料が取られると教えてもらっていた。

 ゲッターとアイナはコンタージュ領を発つ前に冒険者ギルドに登録していたのでギルドカードを持っていたが、カプルとアッグは当然持っていない。

 だがサルバトールが護衛であると身分を保証することで、入場料を払えばすんなり街に入れるだろうとのことであった。

 入場門の前には行列が出来ていたが、30分ほどでゲッターたちの番になった。


 門の衛士はサルバトールと顔見知りのようでサルバトールを見つけると「サルバトールさんじゃないか。ずいぶん早い帰りだね」と声をかけてきた。

 サルバトールは笑顔で「いや、実は幸運にも商談が順調に進んでね。それで早く帰って来れたんだ」と言った。

 衛士も笑顔になり「それはよかったね。それでこちらは?ゴブリンまでいるみたいだけど」と聞いてきた。

 サルバトールは笑顔のまま「途中で護衛に雇ったんだ。こちらの2人はギルドカードを持っていないから入場登録を頼む」と言った。

 衛士は苦笑いになり「こっちだ」と言ってゲッターたちを横の机の方に連れて言った。

 机に行くとサルバトールには聞こえないと思ってか、別の衛士から「サルバトールさんならもっといい護衛を雇えるだろうに」とあからさまに言われた。

 ゲッターはムッとしたが表情には出さず、自分のギルドカードとカプルとアッグの分の入場料を机に置いた。

 衛士はそれを確認しながら紙を差し出し「こちらに名前と出身地を書いてくれ」と言った。

 それを聞いてゲッターはカプルとアッグに場所を譲って、先にカプルが名前と出身地を書き始めた。

 それを見た衛士は驚いて「お前字が書けるのか?」とカプルに聞いてきた。

 カプルは当然といった表情で「書けるよ。そこまで上手い字じゃないけど」と言ってアッグに場所を譲った。

 衛士はアッグもスラスラ書いているのに感心しながら「これだけ書ければ大したものだよ。サルバトールさんに雇われるだけあるな」と言った。

 衛士が見直してくれたのでゲッターも気分を直してペセタの街に入っていった。


 ゲッターたちはペセタに入るとサルバトールと別れた。

 サルバトールはまず常宿に商品を置きに行くとのことだ。

 ゲッターたちは先ほどのようなことがないように、カプルとアッグの冒険者登録をするために冒険者ギルドに行くことにした。そこで冒険者用の宿屋も紹介してもらうつもりだった。

 サルバトールとは「絶対近いうちにまたアトラ村に行きます」と言われながら別れの挨拶をした。


 冒険者ギルドは世界中に支部がある大きな組織だ。冒険者という名の何でも屋の身元を保証してくれるありがたい組合だ。仕事の斡旋や素材の買取、酒場や宿の経営など冒険者にはなくてはならない存在だ。

 ある程度の大きさの街なら大体支部があった。

 ペセタにも大通りの目立つ場所に冒険者ギルドの支部があった。


 ゲッターたちはサルバトールに場所を聞いていたので問題なく冒険者ギルドについた。

 ギルドに入ると中は意外と空いていた。すでに昼近くで多くのものが冒険に出かけているからだろう。


 カプルたちを見ると「ゴブリンだ」「ゴブリンが何しに来たんだ」と声が聞こえた。聞こえるように言っているのだろう。


 ゲッターたちはカウンターに行くと担当者に「冒険者登録がしたいのだが」と用件を伝えた。

 それを聞いた担当者が黙って2枚の登録用紙を差し出したのでゲッターはカプルとアッグに渡した。

 それを見て担当者が「あなたたちが登録するのではないのですか?」とゲッターとアイナを指差していうので「私とアイナはすでに冒険者登録を済ませている。登録するのはこちらの2人だ」と自分のギルドカードを見せながらゲッターは説明した。

「ゴブリンが冒険者登録するんですか?」と担当者が驚いたのでゲッターは怪訝な顔をして「ゴブリンが登録できないという規定はなかったはずだが?それにゴブリンの冒険者も少ないがいると聞いているし」と言った。

「それは今までに全くいないわけではないだけで、過去の話です。今は全くいません」と担当者が言ったのでゲッターは「過去にいたのなら問題ないだろう」と返した。


 すると登録用紙を記入していたカプルが「ゲッターの職業は何なの?」と聞いてきたので「私はレンジャーだよ」と返事をした。それを聞いたカプルは「なら俺もレンジャーにしよう」と言ったのでアッグも「アニキがレンジャーなら俺もレンジャーにしよう」と言った。


 3人のやり取りを見ていた担当職員はとても驚いていた。

 この世界の識字率は低い。王都でも6割くらいで、ペセタなら4割くらいの人しか読み書きができない。農村部だと読み書きできる人がゼロなのも珍しくない。

 だから冒険者の場合、文字の読み書きができるだけで重宝されることも珍しくない。ギルドの冒険者への依頼は紙に書かれて掲示板に貼り出されるからだ。

 この担当職員も登録用紙の代筆を頼まれるのは日常茶飯事だった。


 カプルとアッグが登録用紙を記入し終わったので担当職員に差し出した。職員は受け取ると記入内容を確認した。

 アッグはとても丁寧な字を書いているし、カプルの字も少しクセがあるが決して読みにくくはなかった。記入内容にも問題なく受け取るしかなかった。


 担当職員は驚きを隠せない様子で「わかりました。では試験を行いますので少々お待ちください」と言ってカウンターの奥に消えていった。

 ゲッターは「試験?」と呟いてまたも怪訝な顔をした。ゲッターとアイナは冒険者登録をした際に試験などなかったからだ。

 

 少しすると担当職員は1人の体格のいい男性職員を連れて戻ってきた。その男性職員は顔に傷跡があり元ベテラン冒険者というのが見てわかる人物だった。


 男性職員はゲッターたちを見ると「ペセタの冒険者ギルドで副ギルド長をしているセリオスだ。君たちの試験の試験官を担当する」と言った。

 ゲッターはセリオスに疑問に思ったことを尋ねた。

「私が冒険者登録したときは試験などなかったのだが」とゲッターが言うとセリオスは少し驚いた顔をしてから「ちょっとギルドカードを見せてもらっていいか?」と聞いてきた。ゲッターがギルドカードを渡すとセリオスはカードを確認しながら「基本的には冒険者登録をする時にはみんな試験を受けてもらうんだ。本当に何もできない奴を冒険者にしてしまうとギルドの信用が落ちるからな。試験を受けなくていいのはよっぽど身元がしっかりしてる人が推薦してる場合だけだ」と答えた。

 ゲッターは自分が伯爵家の人間でアイナがそのメイドだから試験を受けなくて済んだことを理解した。そのためセリオスからギルドカードを受け取りながら「わかった」と答えた。


 ゲッターとセリオスが話していると横から「副ギルド長、俺がこいつらの相手をしようか?」と口を挟むものがいた。

 そちらをゲッターが見ると、いかにもガラの悪い冒険者といった2人の男が立っていた。

 セリオスは2人を見てから「デクとライトだ。冒険者歴は3年になる。この2人が相手でいいか?」とゲッターに聞いてきた。

 ゲッターは「何をするのですか?」と尋ね返した。

 セリオスは「この2人と模擬戦をしてもらう。必ずしも勝たなくちゃいけないわけではないが一方的に負けるようなら合格は出せない。もしこの2人が嫌なら私が相手をするがどうする?」と聞き返してきた。

 ゲッターがカプルとアッグを見ると2人とも頷いていたので「わかりました。この2人でお願いします」と返事をした。

 それを聞いてデクは「ゴブリンなんかを冒険者にしちゃあペセタギルドの名折れだ。ボコボコにして落としてやる」と息巻いた。

 他の冒険者からも「ゴブリンなんかに負けるなよ」とか「負けたらお前ら冒険者やめろよ」とか言われ、2人はかなり張り切っているようだった。

 セリオスに「裏の訓練場で試験をする。こっちだ」と呼ばれ、ゲッターたちは訓練場に向かった。


 訓練場には木製の剣や斧、槍などが置かれていた。訓練で余計な怪我をしないようにするためだ。

 木製でも大怪我をすることはある。

 怪我をしたらギルド専属の薬師が有料で診てくれるそうだ。


 デクたちもカプルたちも試験で使う得物を選んでいた。

 デクはロングソード、ライトは弓を選んでいた。

 そしてカプルもロングソードを、アッグは腰にショートソードを指してショートボウを手にしていた。

 選び終わるとゲッターは2人に一つだけアドバイスをした。

 カプルたちはそれに頷くと訓練場の中央に歩いて行った。


 お互いに向かい合うとセリオスが「あくまでも試験なのだからやりすぎには注意するように。こんなことで死なれてもこちらは何もできないからな。無理だと思ったらすぐに降参するように」と注意してから「始め!」と声をかけた。


 最初にカプルがデクに向かって行こうとするとライトが片手を上げた。すると強い風が吹きつけカプルの進行を阻んだ。

 カプルが動けないと見るとデクが攻撃をしようとしたが、それはアッグがショートボウを放って牽制した。

 カプルは動けるようになるとデクとの間合いを詰めようとした。それを見たデクはしゃがんで左手を地面につけた。

 するといきなりカプルの足元に穴が開いた。カプルはその穴に足を取られ転倒してしまう。

 そこをデクとライトは攻撃をしてきたがデクはアッグにショートボウで邪魔をされ、ライトの矢はカプルが転がるようにしてかわした。


 開始から有利に進めている状況にデクは「今のうちに降参すれば大怪我しなくて済むぞ」とニヤニヤしながら言った。

 強い風が吹きつけたり、地面に突然穴が開いたりしたのは2人のスキルのせいだ。

 おそらくデクは土を、ライトは風を操れるのだろうとゲッターは推測していた。


 デクたち有利の状況に、観戦していた他の冒険者たちから歓声やカプルたちにヤジが飛んだ。

 アイナが負けじと「ガンバレ!」と声援を送っているがヤジにかき消されてカプルたちに届いているかわからなかった。

 

 その後もデクたちのスキルのため、カプルたちはなかなか反撃できないでいた。

 カプルたちへのヤジがますます強くなる中、ゲッターは冷静に戦っているカプルたちの様子を見て「ここまでかな」と呟いた。

 

 するといきなりアッグがショートソードを抜くとデクに向かって投擲した。

 驚いたデクはなんとかロングソードでその攻撃を弾いたが、カプルの接近を許していた。ライトはカプルを牽制するためにスキルを使おうとしたが、逆にアッグから矢を射られてスキルを邪魔をされてしまった。

 カプルはデクと接近すると3合ほど撃ち合っただけでデクのロングソードを弾き飛ばしてしまった。

 それを見たライトはデクを助けるために矢を放とうとしたが、それもアッグの攻撃により邪魔をされてしまう。

 カプルがロングソードをデクに突きつけるとデクは「まいった」と降参した。それを聞いたセリオスが「勝負あり!」と宣言し試験は終わった。

 観戦していた冒険者たちからも歓声が起きた。


 ゲッターが試験の前にアドバイスしたのはスキルについてだ。

 この世界の人間は皆15歳の洗礼式でなんらかのスキルを授かっている。

 だからデクたちのスキルがどういうものかわかるまでは慎重に様子を見るように伝えていた。

 なので序盤はカプルたちは受けに回ってデクたちのスキルを見極めていた。

 それでデクたちのスキルが土と風を操るもので、2人とも片手を突き出すか地面につくかしないとスキルを発動させられないことがわかった。

 スキルの正体さえわかればもうデクたちではカプルたちの相手にならない。

 アッグがデクとライトにスキルを使わせないように牽制し、カプルが一気に勝負を決めたのであった。


 もう一つ賞賛すべき点はカプルとアッグの阿吽の呼吸だ。

 特にアッグがショートソードを投擲する際に合図をした様子はなかった。

 何かしらゲッターにはわからない合図があったのかも知れないが、見事な連携であった。


 2人は木製の武器を返すとゲッターとアイナに笑顔でガッツポーズをして見せ

             ⭐️⭐️⭐️


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