1 危険な男

第1話

目の前で命乞いをする男が酷く滑稽に思えた。


鼻から滴り落ちる鮮血を拭いもせずに地面に頭を擦り付け、すみませんでした、許してくださいと何度も繰り返す。


涙で声を詰まらせ、砂にまみれた指を震わせ、どうかどうかと懇願する様は哀れそのもの。


どうしよっかなぁ?


もうこの辺で許してやるかなぁ?


そんな一瞬の隙を見つけた後、容赦なく男の頭を踏みつけた。




「っぐ……、ああ」


「どうだ? 痛いだろ? 怖ぇだろ」


「ゆ、るしてくださ、」


「聞こえねぇーな」




男の頭から足を下ろして、次は顎を蹴りあげる。


空を見るように上を向いた顔を、さらに踏みつける。


男は何かを諦めたかのように目を閉じた。




「いっそ殺してほしいと思うよな、意識を無くした方がマシだって? 怖くて怖くて消えてしまいたいだろ? そう簡単に終わらせねぇよ」


「うっ、うっ」


「こんなもんじゃねぇーだろ! お前が、お前らがアイツにやったのは、もっともっと……」




苦悶に満ちた顔を殴りつけながら、彼女の声が頭の中で響いた。


助けを求めるその声を聞きながら、どうしようもできなかった自分自身にも苛立ちが募る。


いっそ喉を潰してやろうか、目を突いてやろうか、死ななければなんでもいい。


やがて恐怖と痛みで意識を手放した男が崩れ落ちたのを見届け、煙草に火をつけた。




「……あと5人」

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