第18話 い、田舎ものじゃないし!

 湊と七海が通う学校から東に約500メートルほどのところに建っている中学校には、湊の妹である咲穂が通っている。


「咲穂ちゃん、難しい顔してどうしたの?」


 そう親し気に咲穂に問いかけるのは、中島なかじま あかり

 転校してすぐ仲良くなった、咲穂の女友達だ。


「百均で100円じゃないものが売っていてお金が足りなかった?」

「それは1週間くらい前に結構びっくりしたけど、今は大丈夫」

「じゃあ、物価の高さ?」

「今も買いすぎちゃうけど、そこじゃないんだよなぁ」

「じゃあ、ビニール袋の大きさ?」

「違う――――、って私、田舎ものじゃないから!」


 咲穂が田舎から来たということをわかっていると暗に示す……いや、隠そうともしていないかもしれないが。

 そんな生活の変化によって起きる困りごとを灯は次々と上げる。


 当然、栄町などの話でとことん驚く咲穂は、簡単に田舎から来たということがクラス中にバレている。しかしそれでも、こういう部分は遺伝。


 湊と同じでとてもニブい咲穂は、そのことに気づかず、頑張って自分のメンツを保とうとしていた。


 そんな咲穂は、クラスではぬいぐるみみたい、とその可愛さを評価していた。


「まあいいや。で、結局何なの?」

「……恥ずかしながらですね、お弁当を今日持ってくるのを忘れて(作るのを忘れて)しまいましてですね(湊が)お弁当がない状況なのです」


 そしてこれまた遺伝なのか、こういう話をするときは、敬語のような、そうでないような口調で会話をする。


 ふと咲穂の目に、口角が上がっている灯の顔が写る。


「灯ちゃん、なんで笑ってるの⁉」

「いやー、ちょうどいいなと思ってさ」

「なにが」


 そんな意味不明なことを返してくる灯に対して、咲穂は疑問を浮かべる。


「実はね、今日お弁当ふたつ持ってきてるんだよ」

「え?なんで?」

「咲穂ちゃん、絶対ブロッコリーとキャベツ食べないでしょ。その他野菜系も好きではないでしょ?」


 咲穂は顔とは違い、完全な肉食系人間なのだ。


「つまり、野菜ちょっとだけのお弁当を作ってきてくれた……ってこと?」

「ふっふっふ、その反対だ」


 灯は悪役のような声と口調で、咲穂の問いに答える。


 そして灯はふたつ目のお弁当箱のふたを取って開ける。

 緑、赤、の野菜、そして少量の茶色の肉がのせられたそぼろごはん。


「咲穂ちゃん、あげるよ」


 いじわるな笑顔を浮かべ、弁当箱を咲穂の膝の上にのせる。


(最悪ほうれん草だけは残すしかない……)


 そんなことを咲穂は考える。

 少しは廃棄物だとか、フードロスなどについて考えてほしい。


「残さず、ぜぇんぶ食べてね」


 ……湊は言った。「咲穂からあのオーラを感じたら、従うしかないよ」言われたときは全く意味がわからなかったが、今はよくわかった。


「灯ちゃん、ちょっと……」

「食べてくれる……?」


(やばい。これは絶対に逆らっちゃいけないやつだ……!)


 頭で考えるより先に、体が恐怖を感じ鳥肌が立ち、いつの間にか弁当箱を咲穂は受け取っていた。


 咲穂は湊と違って野菜が嫌いである。

 食べれないわけではないのだが、ないほうがいい、みたいな感じ。


 だけどそれには例外もある。

 ほうれん草、枝豆は咲穂の大の弱点。


 いつものようにおいしそうなお弁当からほうれん草を取りでして残しているのを見ると、なんだか灯は嫌な気持ちになったらしい。


 結局咲穂は灯に対抗できず、朝のうちに自販機で買っておいたメロンソーダでほうれん草を流し込んだ。


 その出来事から、クラス内での咲穂の異名はぬいぐるみから癒しの小動物へと進化(進化なのか?どうなんだ?)した。




 ~~~


「た、だいま」


 咲穂は家に着くころに、もうくたくたになってしまっていた。

 ほうれん草を食べたことで終始口の中にほうれん草の味が残り、ほかの授業もあまり集中できなかったのだ。


 しかしそこで見たのは、さらにあり得ない光景。


「おかえり……咲穂」

「咲ちゃん……おかえり」


 明らかにつぶれたくらいの状態の湊と七海。

 いつもなら咲穂のほうが早く家に着くため、咲穂はおかえりを返されたのは久しぶりでもあった。


(まったく、仲いいんだから。このひとたちは)


 そして2人は仲良く横並びで大の字になって寝ていた。


「私も混ぜてね?」


 そして湊のおなかの上に咲穂は飛び乗る。


「おもっ!いたっ!」


 当然湊はおなかに痛みが走る。

 そして禁句を放ってしまった。


「誰が重いですって…?」


 少し…いやかなり湊はかわいそうだが、次へ進もう。


「ななな、なんでもないから!なんでもありません!」

「ほんとかなぁ?」

「ほんとです!」

「う――ん」


 咲穂は少しわざとらしく悩むふりをする。


「ゆ、夕飯はカレーにしよう!うん!」


 それをきいた咲穂は先ほどまでの不穏なオーラを脱ぎ捨てる。


「ありがとう、お兄ちゃん♪」

「だ、だまされた……!」


 見事に湊は、咲穂がカレーを食べるための生贄となったのであった。




 ===

 第18話投稿しました~!


 読んでくださりありがとうございます!


 星3つをつけてくださるとほんとにうれしいです。

 作品フォローをしてもらえても、ほんとにうれしいです。

 PV?最高です。この一言に尽きる。


 ぜひ!

 星もフォローもPVも歓迎してまーす!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る