第4話3人目
夜、夕食の時間になった。
朝、昼ご飯を辞退した客らは空腹には耐えられず夕食を摂った。
菱田の姿が無い。
静かに食事をしていた、大里大学の卒業生をよそに、仙岩寺と広坂はビールを飲んでいる。
新鮮な刺し身にビールは合う。
夜の9時を過ぎたが、菱田は姿を現さなかった。
さもありなん。
菱田と亡くなった平山は、年齢も近く親しい仲だった。
「しかし、左手首を持ち去る犯人像が浮かばないんですが、仙岩寺先生」
と広坂は、チヌの刺し身を口に運びながら言う。
仙岩寺はビールを飲むと、
「左手首に何か秘密があるんじゃないですかね?」
「鈴木教授は撲殺で、平山は毒殺。共通点がないですね」
仙岩寺は黙り、ビールを飲んだ。
「取り敢えず、次の犠牲者が出る前に、我々が旅館内を巡視しましょう」
「先生、必ず我々、長崎県警は犯人を捕まえます」
と、広坂は意気込んだ。
「あのぅ〜」
と、声を2人に掛けたのは林賢太であった。林は弁護士で40歳だ。
「僕にも協力させて下さい」
「君は我々の会話を聴いていたのか?」
と、広坂が問うと、
「だって、しゃべってるのは刑事さんと仙岩寺先生だけじゃないですか」
「じゃ、今夜の巡視に付き合ってくれ」
「分かりました。協力します」
23時、3人は暴風雨の外は外して、旅館内を巡視した。
二階の203号室の前に3人は立ち止まった。
なぜなら、ドアの下の隙間から赤黒い液体が流れていたからだ。
カギが掛かっている。直ぐに中居の田島に合鍵を持たせて、仙岩寺が扉を開いた。
そこには、菱田の変わり果てた姿があった。
田島は目眩を起こし、倒れそうになるのを林が抱き抱えた。
菱田は顔を潰され、左手首が無かった。
犯人の意図が分からない。
広坂の見立てでは、死後3時間と言う所だった。
夕食の前後に殺害されたようだ。
3人で遺体を地下の貯蔵庫に運んだ。
まだ、9月だ。腐敗を起こす前に、冷蔵庫並み寒さの貯蔵庫に運んだ。
仙岩寺は、中居の田島に障子紙を用意させた。
大里大学の卒業生と関係者の名前を書きながら、林から関係性を聴いた。
話しの中で、鈴木陽子と言う名前が上がった。
亡くなった鈴木教授の一人娘だった。
彼女は自ら命を絶ったと話していた。理由は不明らしい。
また、この鈴木教授の教え子の集まりに、腹神昇と言う人物も呼ばれたそうだが、急な用事で来れなかったと鈴木教授は悲しんでいたらしい。
腹神は56歳で、鈴木教授の最初のゼミの教え子だったらしい。
腹神は、苦労して社会人になってから、大里大学法学部に合格した。
教授とさほど歳は変わらないが、駆け出しの教授の1番の学生だった。
翌朝、広坂警部は菱田美智子が亡くなった事を全員に伝えた。
橋本竜介は、盛大に嘔吐した。橋本は小学校教諭だ。
関係図を眺めていた、仙岩寺は大里大学卒業生のある法則を発見した。
それを、広坂警部に耳打ちした。
広坂警部は、その話しを聴くと目を剥いた。
「それって、犯人はアイツってことですか?」
「十中八九」
「でも、どうやってアイツを呼ぶんですか?」
「こっちにも、策があります」
事件は急展開する。
暴風雨はまだ酷い、昼の話しである。
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