第10話

アパートなので部屋数も階数も少なく、三階建ての各階三室ずつしかない。

住んでいるのは近隣に会社をもつ社会人が大半で、隣の部屋が空いたことを知っていたが、一人暮らしを知れるとまずい風潮から挨拶もなく、また多忙な社会人がやってきたのかと思っていた。


その隣が彼、奥村恭平だったのだ。


ゆえに、彼には部屋の前まで送られることになり、そこまで来て私は昨晩のことを思い出した。


「ごめん、全然覚えてなかったんだけど、昨日送ってくれたのって、奥村くん?」


「正解です」と彼は満足げに笑った。


「昨日はどうもありがとう……」


私はそういって、これは先輩としてお礼の一つや二つするべきなのではないかと思案した。


けれど家に入れるわけにはいかないし、それといって都内なのに近隣に飲み屋や定食屋の一つもない辺鄙な場所なので、ちょっとそこまでということもできない。


そこで催促するように彼のおなかが鳴る。

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