第4話

ピンポーン、ピンポーン。


 この家に来てから初めて聞くインターホンの音。自分がいる部屋のものだとわかるのに数秒かかった。


 出るのをためらっていると、ドンドンとぶしつけにドアを叩かれる。


「おーい、純次!寝てんのか、純次出てこい!」


 間違いなく近隣住民にも聞こえているであろう若い男性の声。最初は無視を決め込むつもりだったがそうしている間にもドアは叩かれ続けている。


「せっかく山形から来たのにいないわけないよな!大学辞めたって聞いたから兄ちゃん心配して来てやったのに、無視は違うよなー?早く出て来いよ!へへっ、そういうつもりならドア蹴っ飛ばしてやろうか?おらっ、おらっ!」


 今度はドアが激しく蹴られる音がした。男が正気でないことは明らかだった。何か凶器をもっている可能性もある。警察を呼ばなければ、そう思ってもここの住所もわからなければ家主の苗字も私は知らない。でも、純次はまだしばらく帰ってこないだろう。どうせいつ死んだっていいと思っていた命だ。私は覚悟を決めて、玄関へと向かった。


「や、やめてください!ドア蹴らないで!」


 ドア越しに大声を出すと、男がドアを蹴るのをやめた。


「お前、誰だよ!純次はどこにいんだよ!」


 その瞬間、頭の中に1つの考えが閃く。


 一か八か、覚悟を決めると私はドアを開けた。上下スウェット姿のいかにもヤンチャそうな見た目の男が、私の姿を認めた瞬間驚きで目を見開く。


「さっきからあなた誰なんですか?これ以上騒ぐようなら、警察呼びますよ」


「お、お前誰…」


「この部屋に住んでいる者です。4か月ほど前から入居しています。あなたの探している方はここにはいませんよ。もういいでしょう?」


 今日の私の出で立ちは、何も知らない人から見れば在宅勤務のOLだった。老け顔であることも相まって、男は私が大学生だとは夢にも思わなかったのだろう。


「す、すいませんでした…」


 軽く頭を下げると逃げるように去っていった。男の姿が見えなくなったことを確認し、ドアを閉めると鍵をかける。


「怖かったぁ…」


 安心したのか一気に体の力が抜けた。その場にへなへなと座り込む。


 しばらくぼーっとしていると純次のことが頭をよぎった。立ち上がると、こたつの上に投げっぱなしにしていたスマホを手に取る。すぐに電源を入れると、純次とのトーク画面を開いた。


『さっき、純次のお兄さんだって人が部屋に来たよ。うるさかったから私が住人だって嘘ついて帰しました』


 メッセージを送信すると、キッチンに向かう。純次はいつ気づくだろうと考えながら、なぜか、純次の顔がうまく思い出せなかった。どこかざわざわした気持ちを抱えながら、私は無心になろうと必死でおでんシチューを口に運ぶ。


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