女子高生剣士が異世界にいったら、変態ウィザードの相棒になって賞金稼ぎをはじめました

@ZZtoshi

プロローグと第1話

プロローグ



雪と氷に覆われた富士山の頂上。ブレザーの制服を着た五人の女子高生が輪になって立っている。


マーキュリーこと山城明音が、他の四人に少し慌てた様子で話を始めた。


「誰にも聞かれたくないから、ここに集まってもらったの。変身するところを見られたくないしね」


ネプチューンは呆れた表情で、静かに言った。


「だからって、こんな場所じゃなくていいんじゃないか」


山城明音は真剣な顔つきで話し始めた。


「時間がないから黙って聞いて。アメリス国の能力者から、テレパシーでメッセージが来たのよ。無数の隕石が落ちてくるから気をつけろって」


彼女の声は張り詰めていた。


一瞬の静寂の後、全員が揃って、


「え!」


と声を上げた。


山城明音は四人を見ながら、苦しく言いにくそうに続ける。


「日本にも数え切れないほど落ちるらしいのよ」


マーズが眉をひそめる。


「冗談でしょ?」


ヴィーナスが心配そうに聞いた。


「どれくらいの規模なの?」


山城明音は困ったような表情で、


「わかってるのは、小惑星を砕いた破片が、隕石となって大量に降り注ぐってことだけなのよ。アメリス国の能力者も状況を把握していないようなの」


ジュピターが腕を組んだ。


「回避は不可能なのか?」


ヴィーナスは不安そうに、


「私たちに何ができるっていうの?」


山城明音は全員の視線を集めていた。


「隕石を細かく砕けば、大気圏で燃えるはずよ。これを日本でできるのは、私たち魔法少女隊だけなの」


マーズが言葉を遮った。


「おい明音、誰が魔法少女隊と名付けたんだ。私は魔女部隊と言ったはずだ。魔法少女なんてかっこ悪すぎるぞ」


ヴィーナスが、その言葉に反発した。


「魔女の格好してるのはよっちゃんだけでしょ。なによ、そのへんな帽子」


山城明音は、みんなの前に置かれたスキューバダイビング機材を指差した。


「時間がないのよ。そんなことより変身してから、これを背負って。成層圏を超えて飛ぶから、酸素が必要でしょ」


ジュピターが何を言ってるとばかりに、


「あのな、宇宙はマイナス二百七十度だぞ、変身しても、耐えられん」


山城明音が、説得するように、


「ここだってマイナス温度よ。宇宙空間だって、能力でなんとでもなるでしょ。バリアでも張っちゃえばいいのよ。簡単でしょ。それとも、宇宙服着て、隕石を砕きたいの」


全員が想像し、納得した。


ネプチューン

(動けないな)


ジュピター

(飛ぶのが大変そうだ)


マーズ

(魔女の帽子がかぶれない)


ヴィーナス

(かっこわるいわね)


ヴィーナスがみんなに聞いてみた。


「変身後に酸素ボンベ背負って、レギュレータを咥えるのって恥ずかしすぎない?」


ネプチューンが冷静に、


「ヴィーナスは、能力で酸素を作れるのか?」


「作れるわけないでしょ。でも、かっこ悪いのは嫌なのよ」


山城明音がブチ切れた。


「時間がないと言ってるでしょ!早く変身して!」


全員クルクルっと回って、変身ポーズをした。


マーズは魔女の帽子をかぶりマントを着ている。見た目は魔女っ子そのものだ。新体操部の彼女の武器はリボンスティック。


ジュピターのド派手な金の花柄刺繍をあしらったピンク剣道着と紫袴は目立ちすぎている。剣道部のジュピターは、左右の腰に日本刀を差した、二刀流だ。


ネプチューンの白衣は、戦闘服に見えない。聴診器を首にかけているだけだ。今年、三年生の彼女は念願の医大に合格した。


ヴィーナスだけ魔法少女らしく、ひらひらのミニスカートに蝶々の付いた半袖のブラウス。アーチェリー部の彼女の武器はアーチェリー。


リーダーは赤色と思っているマーキュリーは、真っ赤なセーラー服に変身した。将棋部の彼女が指揮を取った。


「命をかけて、少しでも人々を救うのよ」


魔法少女たちが口々に、こう返事した。


ネプチューン

「わかってるわ」


ジュピター

「任せておけ」


マーズ

「魔女部隊だからな」


ヴィーナス

「終わったらパーティしましょ」


各自、酸素ボンベを背負い、お互いの格好を見て、感想が重なった。


「シュールよね」


山城明音が掛け声をかけた。


「飛ぶわよ!」


一斉に飛び立ち、成層圏を超えると、やがて、隕石群が見えてきた。


横一列になって迎え撃つ。


マーズがジュピターに、


「ジュピター、数え切れないほどの隕石よ!」


「やるしかないな」


マーズは新体操で使うリボンスティックをどこからか取り出した。リボンを隕石に放ち、ムチのように操り、隕石を切っていく。


「結構硬いわよ」


ジュピターも二本の刀を使い、縦横斜めと、閃光の速さで隕石を切り裂いていく。


「一個一個丁寧に切っていくしかないな」


ネプチューンは首にかけていた聴診器を手に取り、イヤーチップを隕石に向けた。そして、チェストピースに向かって、

あの医療ドラマの女医のセリフを呟きだした。


「私、失敗しないので、私、失敗しないので、私、失敗しないので」


イヤーチップから出ていく言葉が、左右の真ん中でぶつかり、渦を巻くように、超音波が隕石めがけて飛ぶ。必殺技の超言葉(ちょうげんぱ)だ。隕石はひび割れ、そして砕けた。


ヴィーナスがそれを見て。


「威力はすごいけど、かっこ悪い武器よね」


「なめないで」


ネプチューンが、白衣の内に手を入れ叫んだ。


「ブラックジャック!」


手術用のメスを隕石に向かって投げた。


刺さったが、砕けなかった。


ヴィーナスが、アーチェリーの矢を放った。


「バカ!何遊んでるのよ!」


ネプチューンの逃した隕石に、アーチェリーの矢が刺さって砕けた。


マーキュリーが喜ぶように、


「さっすがアーチェリー部!将棋部だって負けてないわよ」


将棋盤を両手で持つと、手前に駒が並んだ。


「隕石を砕いてらっしゃい!」


将棋の駒が一斉に発射されて、隕石に突き刺さる。


「成駒!」


隕石に刺さった駒が半回転すると、隕石は小さく砕かれた。


無数の隕石を砕いていく魔法少女たち。


小さな隕石は、線香花火のように、地上に落ちる前に燃え尽きていく。


超巨大な隕石が近づいてくる。まるで山のような大きさだ。


マーキュリーが皆に指示をだした。


「ジュピター!刀を回転させながら飛ばして切って。ヴィーナスは、切った所に矢を打ち込んで。最後に私が将棋の駒を飛ばす。半分に割れた隕石を、マーズとネプチューンで砕いて」


巨大隕石は、四階建てのビルぐらいに砕かれたが、燃え尽きず地上に落ちていった。


みんな、いくつ隕石を砕いたのか、もうわからなくなっていた。しかし、まだまだ隕石は迫ってきている。


マーズがハァハァと、背中で息をしながら、独り言のように不満を叫ぶ。


「酸素ボンベのおかげで、動きが鈍くなるわね」


ネプチューンの呼吸も荒くなってきた。腰の計器を一瞬見ると、残り酸素量が警告レベルまで減っている。


「一時間が限界のようね」


呼吸が苦しくなり、一瞬砕くのが遅れたヴィーナスに、隕石が激しく衝突した。


「きゃー!」


ヴィーナスが落ちていく。


マーズも隕石を避けきれず、あたった衝撃で、数秒気を失った。


落下途中に目が覚めた。地上が迫ってくる。


「やばい、気を失った」


高速で落下していたが、ゆっくりと、足から着地した。


「どこかの山の頂上のようね」


空を見上げるとそこには数え切れない火の玉が流れていた。


「もう、何もできないわ」


都市であろうところに、赤い炎が広がっていく景色が見える。


酸素ボンベを降ろした。


「助けに行かないと」


空を飛ぼうとしたが、全身に電気のような痛みが走った。


「痛いっ!何本か骨が折れてるようね」


マーズは痛みをこらえて、空を飛んだ。頭部から流れる血が、目に入らないように拭う。


「長くは飛べないわね」


上空から見えたのは、隕石に粉砕されたビル、地割れ、何十キロにも渡る大きなクレーター、そして炎。逃げ惑う人もいなかった。


隕石が地面にぶつかるたびに、地面が波打ち、土が全ての文明を飲み込んでいく。


「くっ!もう、何もできない。隕石が落ちてこなくなるまで待つしかない」


ただ、呆然とマーズは文明が、崩壊していくのを見るしかなかった。


「日本が...世界が...なくなる」


第一章


まだ肌寒い季節だった。梅田高校は昼休みでざわめいていた。


一年A組である、私、田中さくらが幼馴染の早瀬ミチコと他愛もない会話をしていると、教室の扉を開く音が聞こえた。


「田中。ちょっといいか」


振り向くと、そこに三年生の剣道部員米倉先輩が立っていた。


さくらは慌てて立ち上がった。


「は、はい!」


身長百六十センチの均整の取れた体型を、リボンのついたセーラー服が包み込み、膝までのスカートを履いている。


「よっ、米倉先輩!」


その声を発した瞬間、さくらは自分の声が裏返っていることに気づいて耳まで熱くなった。


(こんなに人がいっぱいいる前で何を、、、?)


体が硬直し、妄想癖がでた。


《 米倉先輩が私に顔を近づけ、

「さくら、放課後、二人で帰らないか」 》


さくらは慌てて首を振った。


(ダメダメ。また変な想像が始まっちゃう。先輩がそんなこと言うわけない)


肩までは届かない短めの髪を撫でながら、次の言葉を待った。

米倉先輩は、さくらに近づきながら、


「早瀬に聞いたんだけど、田中の家って五百年前から続く、実戦剣術家の家系なんだって。先祖代々伝わる凄い日本刀があるらしいね」


米倉先輩の言葉は、デートに誘われる妄想とは程遠いものだった。


隣にいる早瀬ミチコを睨みつけ、彼女にだけ聞こえる声で、


「なんで刀の話を先輩にしたのよ」


「だって、付き合いたいって言ってたでしょ」


入学してすぐのこと、幼なじみのミチコに相談してしまったのだ。


「あのさくらが、男の子に惚れるなんてねぇ」


ミチコは面白そうに身を乗り出してきた。


「誰?誰なの?」


「べ、別に誰でもないわよ!」


「知ってるわよ。毎朝、廊下の同じ場所で立ち止まってボーっとしてるの見たわ」


ミチコの顔が輝いた。


「剣道部の米倉先輩でしょ?」


「な、なんで分かったの!」


「さくらが先輩と付き合えるように、一緒に剣道部に入ってチャンスをつくってあげる。任せといて」


早瀬ミチコは、人差し指を縦に振りながら、


「ただし、今のあんたじゃ男の人と付き合うのは無理ね。先輩と付き合いたかったら、その勝ち気な性格を直しなさい」


「性格なんてすぐに直らないわよ。それに誰かが言ってたわ、男は三十二億人いるって。あたしだって、、、」


右手のひらを前に出した早瀬ミチコが言葉を遮った。


「ちょっと待って、先輩と付き合いたいんでしょ」


「そうだけど、、、」


「じゃあ、弱いふりをするのよ。ほとんどの男性ってプライドが高いから、自分より強い女子とは付き合わないの」


「自分より強い女の子とは付き合わない⁉」


「そうよ。あんたはちっさい頃から、あの剣術狂いのお父さんに鍛えられて、異常に強いんだから、弱いふりをするの」



米倉先輩は期待に満ちた眼差しで、さくらを見た。


「五百年前って室町時代の刀だよね。今日、道場に持ってこれない?そんな凄い刀、一度見たいんだよね」


さくらは下を向き、


(さすがに刀を神棚から持ち出すのはまずい)


顔を上げて先輩にすまなそうに、


「すみません。ちょっと学校の道場に持って行くのは、、、」


ミチコがさくらの言葉を遮った。


「先輩、本物の刀ですよ。学校に持ってこれるわけないですよ。でも、先輩の家になら持っていけると思いますよ」


さくらの肩に手を載せ、 ニッコリ笑って、


「ね、さくら」


そして、耳元でささやいた。


「二人きりになれるチャンスを作ってあげたわよ。持って行くって言いなさい」


さくらはもじもじしながら、


「あ、あの、クラブの後なら、先輩のお家に持って行けます」


(言っちゃった。どうしよう)


米倉の顔は急に明るくなり、


「本当か?それじゃあ、住所を書いておくよ」


米倉先輩は住所を渡して、うれしそうに教室を後にした。


先輩の背中を見送った後ミチコが、


「上手く行ったわね。米倉先輩って、侍に憧れてるんだって。お似合いじゃない。ただし、古い少女マンガみたいな妄想する癖は、早く治しなよ。変態って思われちゃうよ」


「先輩のこと考えると、勝手に想像しちゃうのよ!」


米倉先輩との一緒の時間の後、もとい、クラブの練習の後、さくらは家に帰って父親にバレないよう、そっと道場に入った。


道場を見渡し呟いた。


「この時代に、あんなバカげた修行になんの意味があるのよ」


中学三年生になった頃から、父親との修行はしていない。喧嘩したまま、口も聞いていない。剣道部に入ったなんて言ったら、また修業させられる。


神棚に飾ってある刀を、押し入れから持ってきた模擬刀にすり替えた。


「妖刀田中家。心が守る刀ってどういう意味かしら」


刀を竹刀袋に入れた。悪いとは思ったが、ニヤニヤが止まらない。


「ごめんねパパ」


道場を出て米倉先輩のことを思い、ドキドキしながら照れながら、刀を抱えて走り出した。


「ふ、二人きりで部屋、何を話したらいいの。先輩にキスを迫られたら、断りきれないよ。あ~恥ずかしい~」


米倉先輩のことで頭の中が一杯になり、妄想が止まらない。


裏道を使って近道をしようと右に曲がった途端、頭上で聞いたこともない音がした。立ち止まって上を向くと空に火の玉が見え、どこかで爆発が起こった。


「何の音!」


上空から火の玉がさくらの方へ降ってくるのが見えた。


「嘘でしょ、、、⁉」


辺りを見回したが、隠れられる場所が見つからない。目に入ったのは工事中のため開いていたマンホールだった。


(あそこしかない!)


さくらは走り出し、工事用の囲いを飛び越え、必死でマンホールのハシゴを掴み降り始めた。


轟音と共に、マンホール全体が揺れ、ハシゴの強烈な振動に耐えきれず、手が離れてしまった。


「きゃっ!」


さくらは暗闇の中へと吸い込まれるように落ちていった。







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