第18話 異能狩り(チートキラー)①

「はぁ……今頃は天界に帰って、信者の貢物みつぎものの果物やスイーツを楽しんでいる筈なのに。どうしてこんなことを私が……」


「愚痴をこぼしていないで、荷車を押すのを手伝ってください」


「キュウ…」


「うるさいわね! 私が天界に帰れないのは、あんたが『恩恵』を得られないからでしょ!」


「俺だって、どうして俺だけ『恩恵』を得られないのか、知りたいですよ」


「キュキュウ!」


 異世界に転移された青年『イサト』と、その彼を含めた【グローバル・ファンタジア】のランキングプレイヤー1000人を召喚した張本人の一神、生命の女神『レイフィア』は、大量のポーションが積まれた荷車を二人で協力して押し進めていた。(ちなみに、カバンはイサトの肩に乗っかって応援している)。


 数日前、イサトが『恩恵』を授かれなかった一件以来、レイフィアは天界に帰れずにいた。彼女はアカリ・ミドリ・アオリ・ドリークスの四人に、自分は生命の女神だが、諸事情により天界に帰れなくなったので、どうか住まわせてほしいと涙ながらに懇願した。


 四人はレイフィアが生命の女神だという突拍子もない話に戸惑いを隠せないでいた。しかし、イサトが「彼女は本物です。どうか信じてあげてください」と真剣な表情で説得すると、彼女等は渋々ながらも、彼女を住み込みのバイトとして受け入れることを決心してくれた。


 そして現在、イサトとレイフィアは薬屋の店主ドリークスから、治療用のポーションを冒険者ギルドに納品してくるようにと頼まれていた。二人はポーションが山積みにされた荷車を、重そうに押しながら進んでいった。






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「はぁ……ようやく終わった。もう立てないわ」


「頻繁に通ってはいるけど、こんな大荷物を運ぶのは骨が折れるな」


「キュキュウ」


 大量のポーションを冒険者ギルドに届け終えたイサトとレイフィアは、ようやくのことでギルド内に設置されたベンチに腰を下ろした。疲労困憊のレイフィアは、弱々しい声でそうこぼし、イサトもまた、重労働の疲れをにじませていた……その時だった。


「おい、それって本当かよ!?」


「俺だって信じられねえよ!」


「嘘だろ、あいつが……」


「……ん?」


 獣人ビーストム霊人エルフ地人ドワーフの冒険者たちが、何やら不穏な様子で騒いでいた。彼等のただならぬ雰囲気に、イサトは思わず注意を向けた。


「うるさいわね~。何の騒ぎよ?」


「……俺、ちょっと様子を見てきます。」


「キュキュー!」


「えっ、ちょっと待ちなさいってば!」


 ギルド内の騒がしさに、レイフィアが苛立ちを募らせる。だが、イサトはそんな彼女の声も耳に入らないようだった。ただならぬ気配を察知した彼は、疲労困憊の体を引きずりながらも、ぐっと力を込めて立ち上がる。そして、レイフィアの声を背に、騒ぎの中心へと向かっていった。


「あの、すみません。何かあったんですか?」


「ああ、お前は確か、転移者ぷれいやーのタダ・ヒロシの知り合いか?」


「はい、そうです。あの、ヒロシさんがどうかされたんですか?」


「大変なことになっちまった。遠征に出ていたタダ・ヒロシが、今朝、らしいんだ。」


「…………は?」


 地人ドワーフの冒険者から告げられた、自分と同じ境遇の転移者プレイヤー、『多田ヒロシ』の訃報。その衝撃的な事実に、イサトの頭は真っ白になった。まるで世界から音が消え失せたかのように、周囲の喧騒が遠のいていく。


 彼は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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