第2話

 俺がこれから生活するのは母屋から廊下で繋がった離れだ。


 八畳一間の和室で部屋の中にあるのは勉強用の机くらいの簡素な作り。

 部屋に入った時に畳のいい香りがした。畳を新しくしてくれたのだろう。


 先に送っていた段ボールの中身を片付けながら今後のことを考える。


 一人っ子の俺が急に年の近い女の子と一緒に上手く暮らしていけるだろうか。

 今まで、彼女どころか女の子の友達だっていなかったのに、いろいろなハードルをすっ飛ばしていきなり同居なんだから。


 とにかく嫌われないようにしないと、特にセクハラ関係は禁物だ。


 ここを追い出されたら行くところはないし、この辺りの家賃を仕送りしてもらえるほどわが家は裕福ではない。


 コンコン。


 入口の引き戸がノックされ返事をするとお盆にお茶を乗せた美月さんが入って来た。


「もう、片付け終わったんや。早いなぁ」

「大した荷物がないからすぐに終わりました」


 実家にあったゲームや漫画なんかは引越しの準備の時にほとんど処分してお金に換えた。これからこっちで暮らすのにちょっとでも軍資金は多い方がいい。

 美月さんは畳の上にお盆を置くとグラスの一つを俺に差し出した。


「お疲れ様」

「ありがとうございます」


 にこりと笑い、美月もグラスのお茶を一口飲む。

「東雲君、そんなにかしこまらんでもええよ。うちら同い年やしなぁ」

「えっ!? 同い年?」

「そう、東雲君と同じピカピカの高校一年生。うちのこと何歳やと思ってた?」

「何歳って……、俺よりも年上かなって」

「ほんま!? ちょっと凹むわ」


 あっ、しまった。思っているより少し年下にしとくべきだった。


「と、年上って思ったのは美月さんがしっかりしているからで」

「そんな焦らんで。それに同い年やから美月でええよ」


 俺ははいと返事をしたが、女の子を名前で呼び捨てにするなんて慣れないから恥ずかしい。


「それじゃあ、唯花さんは一つ下ぐらい?」

「ううん、唯花も一緒。うちら双子やから」

「双子!?」

「見た目も性格もちゃうから、双子やって思われへんけど」


 確かに言われないと、美月と唯花が双子だなんてわからない。

 もちろん、双子=そっくりってわけじゃないとは知っていたけどさ。


「そういえば、唯花さんはさっきのこと怒ってなかった?」

「さっきのこと?」

「ほら、唯花さんの服というか……」


 何と言えばいいだろう。着替えを覗いたわけでもないから何と説明すればいいか難しい。


「それやったら大丈夫。唯花はちょっと人見知りなだけやから」

「よかった。初日から嫌われたらどうしようかと思ってた」

「唯花は最初はつーんとしとるイメージやけど、打ち解けるとめっちゃ可愛いんよ。猫みたいっていうかな。ほら、この時とかっ」


 座布団も敷かず正座をしてたからか、美月がポケットからスマホを取り出すために立ち上がろうとするとずるっとバランスを崩して倒れそうになる。

 危ないと思って反射的に彼女を支えようとしたが、俺も同じように足が痺れて力が入らない。


「キャッ!」


 バランスを崩した美月を俺は支えることができず押し倒される。

 覆いかぶさるように倒れた美月から俺の顔面にぽにょんという柔らかい衝撃が……。


 ぽにょんはまずい、まずいよ。


 そして、こういうタイミングで不幸とは重なるものである。


「ごめん、東雲さん、引越しの荷物がまだ残ってt」


 入口の引き戸がノックなしに開けられる。


「「「…………」」」


 すーっと目のハイライトがオフになっていく唯花。


「ゆ、唯花、これは――」


 美月が立ち上がろうとするもまだ足が痺れているようで思うように立てず、再び俺の顔面を柔らかな衝撃といい匂いが襲う。


「ごめん、二人がもうそんな関係だなんてっ」


 唯花は段ボールを置くとそのまま引き戸を勢いよく閉めて、すぐに母屋の方に帰って行った。


 絶対に誤解されている。初日からこの誤解はきつすぎないか。


 あと、美月、早くどいて……、ぽにょんがぽにょんすぎるから。

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