第11話 血の薄氷
「なぁ、零華」
零華は嬉しそうにキラキラ俺には勿体無いくらい眩しい笑顔を見せる。
「なんですか?結弦さん♪」
「もし…このアパートが取り壊しになったら…お前はどうなるんだ?」
少し悲しい様な顔をしたが、直ぐにキラキラ眩しい笑顔に戻った。
「悲しいですが…私の体は消滅します。ですが!全然悲しくありませんよ?だって…結弦さんが私を覚えててくれるんでしょう?」
俺は零華の頭を撫でた。何処か遠くに行っても後悔しない様に…な
「悲しい事言うなよ…俺が絶対にさせない。約束するよ」
「はいっ!私、結弦さんと一緒に居られて幸せですっ!」
『俺もだよ…』そう言おうとした途端、俺の顔に血飛沫が飛び散る。…あぁ思い出した。これは過去の話だったな…今の話をしようか…
グシャリ…グシャリ…
俺が小学生の頃に愛用していたバットが無惨にも、只の血を纏った鈍器に成り果てた。凹みが増える。困るな…まだ獲物は沢山いるんだ。
…おい…なんだよその目はよぉ…俺がそんなにも憎いかよ!!消えろ…消えろ…俺の視界から消えろォォォ!!見知らぬオッサンの頭が砕ける。只の肉片と成り果てる。静かにしないとな…隣の部屋で零華が寝ているんだ。あれ?皐月が寝てやがる。起きろ!処理はまだ済んで無いぞ。…なんだよ…何泣いてるんだよ!そんなにも零華に消えて貰いたいのかよ!!…何?『こんなの間違ってる。零華ちゃんが喜ぶワケ無い』って?…黙れェェェ!!それじゃあ、出てけ。脳天ぶちまけられてぇのかよ!?さっさと出ていけぇぇ!!
……ごめんな…皐月…こうするしか方法は無いんだ。じゃないと…零華が…消えちまう…
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日差し眩しい朝。俺は朝から騒がしい隣人、三日月弥生さんに起こされた。
まだショボショボしている目を擦りながら、俺は扉を開ける。頭が回転せず、常套句かの如く、いつもの言葉…
「どうしたんです…?こんな朝っぱらから慌てて…宇宙人が侵略してくるんすか?」
弥生さんの顔は真っ青と言うより、真っ白だった。まるで途轍もない程の絶望を味わったのだろう。可哀想に…
「違うわ…これを見て…」
俺は赤色のチラシに目を通す。…は?俺は一瞬で眠気が宇宙の彼方へ吹き飛んだ。デカデカと書かれていた言葉はこうだ。
『水無月荘 解体処分』
水無月荘と言うのは此処、零華を含め、俺達が暮らす拠点の事だ。下の欄には隣のアパートに人数分の部屋を用意したからそこに住んで欲しい…ふざけるなよ…此処が解体されたら、零華はどうなるんだって言うんだよ!?なぁ!おい!
俺は黙ってチラシを真っ二つに破り捨てた。こうでもしないと俺の精神がイカれそうだったんだ。
「弥生さん…工事はいつです?」
弥生さんは下を頷いていたから表情は分からなかった。だが、きっと悲しく思ってくれてるはずだ。
「明日の夜、21時から始まるわ」
俺は拳を握り締める。爪が食い込んで血がボトボト垂れるが、これから浴びる血の量に比べれば屁でもねぇ。
「そうですか…では、皐月に伝えなければならないので」
「そう、だったら私は邪魔ね…帰るわ」
俺は玄関の扉をそっと閉めた。まだ弥生さんが居るんだ。計画を悟られては…浴びる血の量が増える。
皐月が俺の肩に手をかける、いいよな…お前はよぉ。まだ残酷な運命を知らないんだから…
「結弦、どうしたんだよ?浮かない顔してさ~折角のイケメンが台無しだぜ~?」
俺は黙ってチラシの文字を皐月に見せつけた。ちゃんと解体処分の所を指さした。
途端に皐月の顔色が悪くなる。
「ねぇ…これってどうやったら止めさせられるの?これじゃ…零華ちゃんは…」
「そう、零華は消滅する…なぁ、皐月。俺の作戦に手を貸す気はあるか?」
皐月は希望を取り戻した様な顔をして言った。零華に気付かれない様に小さな声で。
「どうすればいいの?私、何でもするよ?」
俺は一旦深く深呼吸を済ませる、スーハー、スーハー。よし。
「簡単だ。工事の現場監督を殺せばいい…そうすれば工事は中止になる」
皐月は唖然とした。どうやらこいつは事の重大さに気付いて居ない様だ。
「駄目だよ!そんな…人殺しなんて!絶対に結弦は後悔する…」
俺は皐月の胸ぐらを掴む。皐月の小柄な体が宙に浮かぶ、俺は怒りでどうにかなりそうだ…
「甘ったれた事言ってんじゃねぇ…人は絶対に間違いを犯す生き物なんだよ…俺は俺の為に間違えるだけだ」
俺は廊下に立ててあった金属バットに手を掛ける、重さ、質量、固さ、申し分ない。大抵の人はこれを振りかざすだけで即死だろうな。
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12月22日 19時
俺と皐月は予め零華に、となり町の旅館で泊まって遊ぶという事を伝えた。零華は『面白そうですね!』と嬉しそうな顔をする、微塵も疑いの無い笑顔だ。俺はこの笑顔を守る為なら…人殺しだって躊躇わない。例え俺が血にまみれても…
俺はすっかり旅館のベッドで寝てる零華の頭を撫でる。ごめんな…俺、ちょっくら間違ってくる。
皐月はずっと下を向いて黙っている。やっと決心してくれた…俺は嬉しいよ
俺と皐月は零華の故郷、神奈川の水無月荘に到着だ。工事は開始されている様だ、まずは従業員から殺すべきだろうか、俺は皐月に聞いた。
「なぁ…監督と従業員、どっちを先に殺すべきだと思う?」
恐る恐る皐月が俺に聞いた。
「ねぇ、やっぱり止めようよぉ…人殺しなんて絶対に駄目だよぉ…あぅぅ」
皐月はホロリホロリと涙を溢す、何でお前が泣けるんだ?泣きたいのは俺達じゃなくて零華だぜ?もしかしたら消えちまうかもしれないって言うのに…
俺は皐月の頬をおもいっきり殴る、甘ったれた根性を叩き直してやらなくちゃな。殴られた皐月は頬を抑え、涙目になりながら『痛い…痛いよぉ…』としか言わない。どこまでお前は腐ってるんだよォォォ!!
「黙れェェェ!!そんなにも自分は正義マンぶりたいのかよ…!だったら今から零華の所へ帰れ!帰れよォォォ!!」
「ごめんなさい、やっぱり私…出来ないよぉ…」
皐月は帰りやがった…糞が!俺は近くにあった壁を殴った。俺の拳から血が出るが、不思議と痛みは感じなかった。
どうやら最近の工事現場はゴミ収集車も同伴させるみたいだな。…いや、良いことを思い付いた。俺は自分のスマホをゴミ収集車の中へ投げ入れた。スマホはゴミの中へ吸い込まれる。スマホのスピーカーから『助けて下さい!』と女の子の声が流れる。…勘のいい読者さんなら分かるな?
突然の如く、従業員が駆けつけてきた。皆、口を『揃えて大丈夫ですか?!』と言ってゴミ収集車の中に入って居るはずの無い少女を探し出す。
俺は高速でゴミ収集車の中に入り、とあるレバーを引いた。それは…扉を閉じ、ゴミを砕くレバーだ。従業員は口々に叫んだ。
「おい!誰か!助けてくれ!このままじゃ俺達、死んじまう!」
「死にたくない!助けて!」
俺は耳を澄ませた、零華を消そうとした報いを受けよ…
骨と肉が砕ける音がして以降、奴らの声はピタッと止まった。残すは監督だ。待っててくれよ零華。今…俺が助けてやるからな…
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