第2話 願い事

前回のあらすじ

突然俺の家に現れた少女、伊吹零華。なんと驚くべき事に、彼女には人間としての感情が無かった

俺はそんな彼女の感情を取り戻すべく、笑いを教えようとするが…当然、俺のセンスじゃまだ時間がかかるようだな。


そこで俺は考えた。外に出れば何か感情が芽生えるのかもしれない。そうだ…そうに違いない!

旨いシチューでも喰わせてやれば、感動して涙を流すだろう。早速、俺は幽霊さんに声をかける事に。

「なぁ零華。外出て昼飯喰おうぜ。腹減った」

無感情なまま零華はこくりと頷いた。

俺と零華は外に出る支度を済ませ、いざ出陣だ!と言おうとした瞬間。俺は気付いた。

「そういえば…零華は靴持ってんの?靴下はずっと履いてるけどさ…」

無感情なまま零華は首を横にふった。ですよねぇ

咄嗟に俺は名案を…いや、妙案かもしれんが…

「だったら。お姫様抱っこしてやるよ。それなら大丈夫だな」

「とか言って…実は私に触れたいだけじゃ…」

「小さなお子様には興味無い。俺はお姉さんが好みだ」

顔は無表情な感じだったが、零華は頬を膨らませた。

「私はお子様ではありません!…プンスカ…」

プンスカ…って。それ自分の口で言う物なの?

俺は零華をヒョイと抱き上げ、取り敢えず街に出掛けた。此処からなら徒歩3分だ。しかし…小学生とはいえ、流石に気分が高揚します。

適当に靴を買った俺と零華はテレビ屋の前を通りすがる瞬間。零華の足が止まった。どうやらCMに興味があるらしい。どうやら内容は…

「人間らしくあれ…?どうすれば…?」

やはりな、人間の癖に人間らしくありたいなんて、変わってるやつだが俺は決して笑わない。人が一生懸命に頑張ってるんだ。それを笑うなんて人間じゃない。

子供の夢は世界の夢。それを夢だと笑うやつは人間じゃない…だろう?

「結弦さん…どうすれば私は人間らしく生きる事が出来ますか?私…本気で知りたいんです!」

顔を真っ赤にして人を気にせずに叫ぶ零華を慰めるかの様に、俺は自分らしく、必死にフォローした。

「人間ってのはな…ワガママ言ったり、好き嫌いしたり、嘘をついたり悪いことをするのが人間らしいと言えるな。それと、何かを必死に考える事だな」

零華が疑問そうに俺に質問してきた。

「悪いことをするのが人間なんですね!でしたら…」

「ちょっと待て」

何か悪い事が起きる気がした俺は左手で零華の口をふさいだ。

「確かに…人間は悪い事をする。だけどな、他の人に迷惑をかけるような悪いことは駄目だ」

「そうでしたか…申し訳ありません。取り乱してしまいました…」

顔を下に向けてしまった零華に俺は声をかける。

「取り敢えず、公園で散歩しながら話しようぜ」

「そうですね。分かりました」

公園に入った途端、俺の足元に野球のボールが転がって来た。少年らの『とってくれませんか~?」と声がしたので俺は声の方向にボールを投げ返した。零華が疑問に思ったのか、俺に事情聴取をするかの如く質問してきた。

「結弦さん。なかなかいいボールでしたよ。もしかして高校時代は野球部でしたか?」

「いや、俺は小学生の頃にクラブチームに入っててな。甲子園目指して頑張ったんだけど…」

「努力が報われず、結弦さんだけ万年ベンチの補欠でしたか?簡単に想像出来ますね」

こいつ…なかなかえぐい事言うな。いや…待てよ、良いこと思い付いた!此処で俺があり得ないくらいに悲しんだら少しは感情を取り戻してくれるんじゃ…?思い立ったが吉日。俺は試してみる事に…

「うわああああああああんん!!何でそんな事言うのおおおおおおおおおお!?悲しいよおおおおおおおおおお!!」

嘘泣きをセットで付けた。騙す準備は完了だ。後は引っ掛かってくれるだけ…

「何してるんですか?大人ですよね?恥ずかしく無いんですか?見損ないましたよ…」

ヤバい…本当に泣きそう。そんな汚物を見る様な目をしないでぇ、お願いだからっ!

無論、やることは決まっている…

「うわああああんん!!!」

俺は精一杯泣いた。10年ぶりだ。こんな大泣きしたのは。因みに俺は、気付けば零華に置いて行かれていた。


コンビニの前を歩いていた零華はふと、思い出した様に言った。

「迷惑をかけずに、悪い事をするってどういう風にやればよろしいのでしょう?」

俺の脳に天才的なアイディアが爆誕した。これなら…零華の感情を取り戻せるかもしれない…!

「簡単さ。強盗ドッキリをするんだ。あのコンビニにな!見てろよ。俺が手本を魅せてやる」

俺は全速力でコンビニの中に侵入した。『いらっしゃいませ~』と声をかけてくれたが、俺は全無視し、叫んだ。

「強盗ですよ~金をだしな!……なんて、冗談…」

俺の肩を誰かが掴む。強盗の俺の肩を掴むなんて相当の勇気が…

俺がみたのは警察官の格好をした。オッサン二人組だった。

「ちょっと…話。しましょうや…」

あ…終わったわ…零華になんて言おう。

零華がみたのはパトカーの中に入れられている俺の姿だけであった。



「やっぱり…我が家が一番ですわ!!」

警察署に連れてかれた俺は零華の説得により、オッサン達から解放されたのだ。危うく俺は人生に幕を下ろす所だった…

「結弦さん。次からは気を付けて下さい。それと、二度とこんな馬鹿げた事しないで下さい。結局、人に迷惑かけてるじゃないですか!」

核心をついた一撃だった。確かに俺は零華に迷惑をかけた、その分何かをしないとな…

「私は貴方が嫌いです…傍にいたくありません」

「うぇっ?!」

零華はあっかんべーと言わんばかりに、舌を出した。

「嘘ですよ。これで私も一歩。人間に近づきましたね。本当にあんな真似二度としないで下さい」

俺は胸を撫で下ろす。本気で嫌われたと思ったぜ…心臓に悪い。

「何か御詫びしないとな。何かしたい事あるか?」

家事がしたい…ねぇ。

「お前、人間らしくなったな…」

眉が少し上がった。驚いたようだな。

「だってさ~自分のやりたい事があるなんて人間でしか有り得なく無い?」

「確かに…!!そうですね!少しずつですが、感情が取り戻された気がしますっ!」

少しだけか…どうやら、完全に取り戻すまで時間がかかるようだな。


次回に続く…

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