だべりぶ

似若 雄/Niwaka Yu

【だべりぶ#1】マスク

【高校 廊下】


「あ痛った……」

「も、申し訳ございません! お怪我さんはございませんか!?」

「大丈夫だよ、そっちこそ……ってあれ?」

「どうかなさいましたか?」

「君って、この間転校してきた……えっと」

「はい! 先日よりこの五十嵐いがらし高校さんでお世話になっております、姫崎と申します!」

「やっぱり。……私、同じクラスの水野。一人で何やってるの? 部活とかもう始まってる時間だと思うけど」

「───実は、そのことで少し悩んでおりまして」

「ふーん。……じゃあちょっと一緒に歩こう。私も部活ないからさ」

「よろしいのですか? では、お言葉さんに甘えまして……」



◇◇◇◇◇



【高校 廊下】


「───というわけですの」

「なるほど、だいたい事情は分かった。分かったけどさ」

「何かご不明な点さんでもございましたか?」

「……いや。やりたい部活がありすぎて選べないっていうの、珍しいなと思って」

「あら、そうなのですか?」

「うん。こういう転校生の悩みっていうのは、だいたい前の高校でやってた部活がないからとか、雰囲気が違うとかそういうネガティブな理由の方が先行するような気がする」

「わぁー! 水野さまは、転校生さんの事情さんにお詳しいですのね! もしかして、そういう資格さんなどを持っていらっしゃったりするのですか?」

「どんな資格よ。……まあ私は、よく本とか読んでるからそれで想像しただけ」

「まあ! 妄想力さんが豊かなのですね!」

「……なんかその言い方やめて」

「───あら、水野さまご覧になって。あそこの教室さん、明かりさんがいていましてよ?」

「本当だ。あそこ空き教室のはずなんだけどな。……消し忘れかな。───すみません、開けますよー?」


ガラッ


「…………」


「お邪魔しましたー」


ピシャッ


「水野さま、この高校さんには不審者さんがいらっしゃいますのね! なんだか青春さんの香りさんがしますわ!」

「しないしない。───それにしても何だいまの。どうして空き教室にプロレスのマスク被った不審者がいるんだ? 服はうちの高校のやつだし、こんな酔狂なことする人間がこの学校に存在したのか……?」


ガララッ


「───ちょっと、ドア閉めないでよ!」

「あら水野さま、わたくしたちどうやら不審者さんから熱烈なラブコールさんを受けているようですわよ?」

「……姫崎さん、多分この人関わっちゃいけない人だよ。───すいません、それ以上近づくと先生呼びますよ」

「先生? 別に呼んでもいいけど。だってアタシこの学校の生徒だし。……正直いま、猫の手も借りたい状況で。あなたたちが手伝ってくれるとほんっとうに嬉しいんだけど、どうかな?」

「───水野さま! こういう時こそ、『情けは無用の長物ならず』ですわ!」

「それを言うなら『情けは人のためならず』ね。なにそのことわざキメラ。……まあ私も暇だし、姫崎さんとこの不審者を二人っきりにしとくのも危なっかしいから、私も姫崎さんの意見に賛成かな」

「えっと、つまりそれは……アタシの申し出を断るってことなのかな?」

「なんでそうなる」

「だ、だって、人のためにならないんでしょっ!? それすなわち、アタシを見捨てるってことなんだよねっ!? そ、そんなの、しばし泣く!」

「……あーシンプルにバカだった」

「そんな───これほど頭さんをお下げになられてるのに。水野さま、ヒドイですわ!」

「あれ、なんで私責められてる?」



◇◇◇◇◇



【高校 空き教室】


「二人ともありがとう! 一時はどうなることかと思った!」

「まあ、まだ完全にあなたを信用したわけではないので……。それで、何を手伝えばいいんですか」

「その前に、はいこれ!」

「……これは、プロレスさんの仮面さん、ですの?」

「そう! それ以外にもまだ色んなバリエーションがあるよ! いま机の上に並べるね!」


ドサドサッ


「……なにこの山」

「好きなの選んでね!」

「ではわたくしは、こちらのマスクさんにいたしますわ!」

「……姫崎さん順応早すぎでしょ。……あの、すみません。これどういうことですか?」

「うーん、話せば長くなっちゃうんだよね」

「どのくらいですの?」

「ざっと冬休みくらい」

「じゃあ短いじゃん」

「まあまあ───これにはある深ーい理由があってさ。……ほら、ここ最近例のウイルスが流行ってるじゃん? 学校でも各自の予防をしっかりしてくださいみたいな感じで」

「あー、黙食とか続いてるもんね」

「そうそう。それで落ち着いてきたとはいえ、やっぱりまだまだ油断するわけにはいかないなーと思って、学校で配る用にマスクを注文したの」

「……オチが読めた」

「それで届いたのが、全校生徒+教員分のプロレスマスクだった、ってわけ!」

「てわけ、じゃないでしょ。どうすんのさ」

「どうすんだろうね」

「こいつ……」

「どうどう水野さま───」

「私は馬か」

「それで不審者さんはわたくしたちに協力さんを仰いでいると……そういうことですのね?」

「そうそう御名答。ひめっちはやっぱり勘がいいね」

「あれ、姫崎さんこの不審者と知り合い?」

「うーん、お顔さんを隠していらっしゃるので分かりませんわ」

「あ、アタシとしたことが……これは無礼を働いてしまいました。お詫びに水野が腹を斬りますのでどうか」

「いや、代理切腹しないから。あとなんで私は呼び捨てなの?」

「えー? じゃあ……みずち?」

「ヘビじゃん」

「ブッブー、竜です」

「どっちでも一緒だよ」

「あら、水野さまはドラゴンさんがお嫌いなのですか?」

「ドラゴンっていうか、細長いものが嫌い。なんか得体がしれなくて……」

「ははっ!」

「なにわろとんねん」

「じゃあさ───もういいかな?」

「いったいなにが?」

「今日はもう遅いから、明日また皆で考えよう?」

「え、明日も確定なの? この暫定覆面女子高生と会うのが?」

「そうですわね。水野さま、今日は一旦引きましょう」

「姫崎さんはどうして乗り気なの? 危機感をどこかに置いてきちゃった?」

「えーと、こういう時は確か……首洗って待ってろよ、でしたでしょうか?」

「だいぶ違うよ姫崎さん」

「首なんか洗わないよ! 石鹸がもったいない」

「うわ、やっぱりシンプルにバカだった」

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