第6話 帰宅後に

 帰宅しても、リビングで佐上カイトがその羽織っているマウンテンパーカーを、しばらく脱ぐことはなかった。暖房でリビングが暖まるまでの辛抱だった。それが改めて雪の積もっていないこの日々が冬であることを痛感させた。そうでなくとも人のいない部屋は肌寒く感じさせるものだ。

 破魔矢を神棚に祀ってからリビングに戻り、インスタントコーヒーを淹れた。すっかり温まったリビング。外套を脱いで、テーブルにはポストから引き揚げてきた年賀状の束があり、それを仕分けした。父宛、母宛、多からずにある自分宛。メールが新年のあいさつ通知になった時代とはいえ、年賀状というのは伝統形式を未だ残すものだった。

 自分宛の年賀状を裏表見返しながら確認していく。メールで返信しておこうと思うものの、この人は年賀状でと思う人もおり、家に未使用の年賀状があるかどうかなど知れず、後から買いに出なければならないと外の景色を見て、若干寒々しくなった。風が「外は寒いぞ」と告げていたからである。

 最後の一枚。そこの宛名を見て、佐上は眉をひそめた。

 祝(ほうり)叶(かなえ)。

 幼馴染の男子だったが、中学で転校して以来連絡がなかった。

「今年またそちらに行くことになったよ。また会えることを楽しみにしている」

 簡潔に一文だけが乱雑な字で書かれてあった。それがまだ変わっていない彼なのだと、佐上は懐かしさがこみあげてきていた。

 と同時に、佐上はふと思い出した。小学校の生活が日に日に少なくなってきたある日、自宅近くの海岸で、彼とともに将来の夢を話したことを。

 ――そういえば、あれも新年早々じゃなかったっけ

 やたらに強い波風と強い朝日だったような。そんな情景のうろ覚えの記憶とは対照的に彼と交わした言葉は鮮明に覚えていた。

 ――随分懐かしいな

 ようやく部屋が暖まってきて、佐上は二杯目のコーヒーを淹れるために椅子から立った。

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