第16話 英雄、仇になる
23年前のオリジナル版、プレイデータ。それを使えば町のNPCたちが懐かしがり、帰って来た英雄として迎えてくれる。
しかし、かつて討伐したボスモンスターにとっては全く逆の忌むべき存在。
「……つまり、あいつからすれば俺は仇ってわけだ」
オクラは、熊面鬼を追う矢を横目に見ながら、スコップたちに手短に語りかける。
「なるほど。ランカ女将(酒場のNPC)、一杯奢ってくれましたもんね。でも、今度は――」
頷きながらそう言うスコップの表情は険しい。
「一矢報いる、ってとこだろうな」
急に目で追えないほど速さが増し、怨嗟轟砲なる技が追加された。しかもそれは自身だけを行動不能にした。プレイデータ使用者用の強化なのだろう、とオクラは考えている。
「俺にターゲットが固定されたと思えば少しは楽だろ?」
深く頷く3人は少しばかりオクラから離れて位置取る。狙いやすい様に、と言わんばかりに。皆は丁度、熊面鬼が背後にまわった気配を感じ取っていた。
そう言うだけで理解してくれる、思わず口元の弛むオクラ。そして、もはや聞き馴染の感すらある咆哮のウェーブが押し寄せる。
「いっくぞっ」
そのタイミングに合わせ、オクラと熊面鬼の間に割って入る様に飛び出したのはアーマー。湯池鉄城の効果を使いつつ、大盾で迫りくる怨嗟轟砲を散らしにかかる。
その脇を抜けて来たウェーブは、オクラが聖鱗の盾から発した光竜が食っては黒いスパークとなり霧散する。
大方防いだものの僅かに抜けて来たウェーブがオクラの身体から自由を奪う。右腕がうまく上がらない。
「邪魔だぁぁぁぁ!」
アーマーに進路を阻まれた熊面鬼が脚を止める。その直後。
「ぐうっ」
スコップが前に放った、追跡していた矢が背中に突き立った瞬間。それに合わせて、アーマーの頭上を跳んで躍りかかったランサーの槍が迷わず熊面鬼の腹を貫く。
「ぬふぅっ……」
「よし、入ったぁぁぁ!」
それを見届け、スコップは落ち着いた様子で再び追奔逐北の矢を放つ。その瞬間、熊面鬼が大きく口を開いた。
「また、やる気? 無駄だって」
怨嗟轟砲が来ると見て取ったアーマーが前へ出る。槍を引き抜いたランサーは跳んでその背に隠れる。そうして入れ替わった直後の事だ、熊面鬼が両腕を頭上に大きくもたげる。
――あれは。
オクラは、その様に、オリジナル版の画面に流れるバトルメッセージを思い出す。
【熊面鬼は両腕をもたげ
「渾身爪撃だ」
直感的にそう感じて叫ぶ。オリジナル版では、威力はあるが命中率が極端に低くてめったに当たらなかった技。当時のプレイヤーの間ではある種、ネタの様に扱われていたものだが。
まず怨嗟轟砲が放たれる。アーマーとオクラでほとんどを散らすが、今度は左脚に鈍いものを感じるオクラ。
それを放った直後、両脚を軸にしてコマの様に身体を回転させ始めれば、鎌の刃の様な爪が車輪のごとく回り、大盾を何度も叩く。その度に耳をつんざく金属音が走った。
バギッ、そうしている間にスコップの矢が熊面鬼に迫れば高速で回転する爪に叩き折られる。
「げっ! な、なんだコレ!?」
大盾は爪の攻撃を弾き続けているもののアーマーの身体は徐々に後ろへ押し出される。体勢を低くして踏ん張ろうとしているが状況はかわらない。
動き自体は遅い。だが、ゆっくりと着実に熊面鬼は自身の方に向かってくると感じたオクラ。
「まずいな、この状態では……」
左脚を引きずりながら右へ右へと少しずつ逸れていく――間一髪、先程まで自身がいた位置までアーマーが押し切られた。
――こいつは。
アーマーがいなければ危うかった、と肝を冷やす。怨嗟轟砲で完全に動きを封じられた後ならば、渾身爪撃は必中の様なもの。
背に岩壁が迫ったところでアーマーはひょいと身を反らす。爪が岩壁を削り始め、ゴリゴリと音が響けば、回転を止める熊面鬼。
めまいを覚えた様に、頭を軽く振る仕草を見逃さずスコップが矢を放つ。ランサーが跳び、自身の身体から痺れが消えたのを感じたオクラも続く。
ランサーと矢を追い越したオクラ、右手に持つ竜牙の剣の切っ先を熊面鬼の胸に突き立てる。顔に苦悶を浮かべながらも隻眼で、ギロリ、と睨みつけてくる。
「貴様さえおらねば、作戦は成功だったものをっ」
「……」
うなりを上げて振り上げられる右腕を見止め、振り下ろされる直前に飛び退るオクラ。刹那、空振りとなった右腕を矢が射貫く。更にランサーの槍が傷をえぐる。
矢を引き抜いては咆哮を上げる熊面鬼。その間、後退した自身を中心に3人が再びフォーメーションを組み直す。ステータスに目をやったオクラは、アーマーの背に向かって右手をかざす。
「ライゾール」
「あっ、HPが! ありがとう、オクラさん!!」
常に先頭にたって熊面鬼の攻撃にさらされた。スキルで随分と弾いてはいたが、間隙を縫うように入った小さなダメージが蓄積していたアーマー。
振り向いて礼を言うところ、小さく頷いて応える。
「さて、もうひと踏ん張りだ」
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