23 ジルベール騎士爵 アニエス その6
ソーヌ村の空が、夜の領域が滲む色合いへと変化を見せるころ。
先ほどまで戦場であった村。
喧騒や悲鳴や怒号はなく、あるのは静寂のみ。
鉄錆と血の匂いが混じり合った生臭い空気が淀む。
まだ沈む前の太陽が、道端に転がる亡骸や、赤黒く染まった土くれを不気味に照らし出している。
敵兵の姿が一人も見えなくなったことを確認すると、私はようやく深いため息をついた。
最悪だ。
間に合わなかった、クソが。
だがここで慙悔し嗚咽しながら犠牲者に詫び、敵を呪い、己の不甲斐なさを嘆くことなど求められてはおらぬ。
現実を見よ。目を背けたところで事実は消えてなくならん。
私は騎士であり、即ち領主である。
粛々と責任を背負い、義務を履行せねばならぬ。
「死体は後だ。まずは負傷者を手当てする」
さて、私は生き残った兵や自警団たちに声をかけた。
彼らはただ呆然と立ち尽くしていたが、私の声でようやく我に返ったようだ。
「パトン、怪我は」
「はっ……。この通り、大したことはございません。アニエス様こそ、お怪我は……」
腹を押さえ苦痛に顔を歪めながらも、パトンはまず私の身を案じた。
社交辞令とかではなく、本心で尋ねているのだろう。
見ればわかるだろう、とは言うまいよ。
彼の忠誠心は毎度見上げさせられるが、とはいえ、今は感傷に浸っている場合ではない。
「問題ない。お前は一度下がれ。動ける者は手を貸せ。動けぬ者はそこらの家に運び込み、傷の治療を」
私は指示を飛ばす。
この場の最高責任者が私である以上、私が言わねば人は動かん。動けん。
ジルベール領側の死者は数名。
負傷者はその倍以上いる。
多くは傭兵らしい連中によって斬りつけられた深い傷だ。
……やはり、戦いを専業にしている奴ら相手は荷が重かったか。
ギヨームの野郎が金をケチらずに、もっと大規模な傭兵団を引き連れてきていたら、被害はこれだけじゃ済まなかっただろう。
下手すりゃ根切りもあり得る。
負傷者の治療はなるべく清潔な場所で行わせ、使う道具は予め煮沸して消毒したものを使わせる。
この時代の医療技術は本当にクソガバだからな……瀉血すれば何でも回復すると思ってる節がある。
そうでなくても、汚れた場所で汚れた手で傷口を触るものだから良くて化膿、悪くて破傷風とかよくあるパターンだ。
何もしないほうがマシとかいう
パトンやその部下の兵には、私が力説して徹底的にその辺は教え込んだのだが……まあ私が出来る現代知識チートなど、その程度だ。
これすらもあんまりやり過ぎると、教会に目をつけられそうだから大っぴらには行えないからな。
無事だった村人たちも、恐怖から立ち直り、家族や隣人の安否を確認し、負傷者の手当てに協力し始めた。
湯を沸かす者、清潔な布を用意する者……こういう時は仕事をさせたほうが気が紛れて良いと聞く。
それならば、私も早速仕事に取り掛かるとしよう。
「アニエス様」
手当てを受け、顔色が大分とマシになったパトンが、私の元へ歩み寄ってきた。
「ギヨーム・テネブルシュール卿は……いかがなされましたか」
「私は見ていない……が、兵に聞いたところ……戦況が決したと見るや、早々に兵をまとめて引き上げたようだ」
「……そうでしたか」
私の答えに、パトンは悔しそうに唇を噛んだ。
相手は将すら出さずに村を蹂躙してみせたのだ。
そりゃあもう、舐めプも舐めプであろう。
「テネブルシュール卿は徴税官の館へ向かう、と話してもいたそうだ」
「……ジャン・ドニの館ですか?」
そうだよ。
目が点になっているパトンだが、私も同じ気分だ。
何せ見た目は領主の館にも匹敵する、このような集落では最も立派な館ではあるから、何かめぼしいお宝でもあると踏んだのか?
だがギヨームは明確に徴税官の館へ行く、と言っていたそうだ……徴税官の館そのものには何の価値もないだろう、たまたま税を集めた後とかならともかく。
それに、そもそも略奪するなら倉に行くはずだが……なぜ、そこに行く?
そこには、館の地下に閉じ込めたジャン・ドニしかいないぞ?
「パトン、お前はここで負傷者の手当ての指揮を続けろ。動ける者は私に続け。館を改める」
「アニエス様、私もお供いたします」
「パトン、お前は兵を連れて倉庫……穀物庫だ。そちらの様子を見てきてくれ。テネブルシュール卿がそちらに立ち寄った可能性もある。ジャン・ドニの隠し倉庫の方も確認せよ」
「……はっ、承知いたしました」
パトンは恭しく一礼する。
私は無事な兵士の中から数名を選抜し、夕闇に沈む徴税官の館へと向かった。
館の扉は開け放たれていた。
地下に監禁しているジャン・ドニには見張りの兵をつけていたが、ギヨームの襲撃に対応するために外している。
ギヨーム・テネブルシュールの姿は、どこにも見当たらなかった。
「………」
私は兵たちとともに、自ら館の中へと足を踏み入れた。
数日前、ジャン・ドニの不正を暴くために訪れた時と、調度品の配置は変わっていない。
だが、そこには決定的に欠けているものがあった。
まず、銀貨。
ジャン・ドニが不正に蓄財していた銀貨の入った革袋。
それらは全てなくなっていた。
その銀貨は、王国の法的には摘発した私の所有物であるが……不正の証拠でもあったため、サーモ伯爵に報告するまでは持って行かず置いていこう、と考えたのが裏目に出てしまったか。
度重なる重税で疲弊していた村の復興に使いたかったのだが……。
が、この場において、それは些細な出来事に過ぎない。
もっと重要なものが、この場からなくなっていたのだ。
「……塩がない。その帳面もだ」
密輸品である大量の塩。
それらが保管されていたはずの場所が、もぬけの殻になっていたのだ。
さらには塩の取引に関する裏帳簿。
それもまた、跡形もなく消え失せていた。
……え?
なんで?
ギヨーム・テネブルシュール卿は騎士爵だ。
いくらなんでも、これだけの量の塩が法に抵触することは知っているだろう。
見つけて押収したのか……私が主導で塩の密輸を指示しているのではないかと誤解したとか?
……いや、違うな。
「地下室だ」
私は兵士たちを連れ、地下へと続く冷たい石の階段を降りていく。
元はワインとかの保存庫であった場所。
ジャン・ドニはそこで拘束している。
しているはずであった。
していた。
「……いない」
ジャン・ドニが縛り付けられていたはずの椅子は、無残に打ち壊され、床には引きちぎられた縄が散乱している。
そこに、彼の姿はなかった。
あの肥満体で縄抜けの術を会得しとるとは思えんし、縄を引きちぎって逃亡などもっとあり得ないだろう。
私でも引きちぎりが出来たのはつい二年前なのだぞ。
「連れて行かれたか」
その瞬間、背後から慌ただしい足音が聞こえ、パトンが息を切らしながら駆け込んできた。
「アニエス様!ご報告いたします!穀物庫が……穀物庫が、荒らされておりました!」
「ギヨームの姿は」
「いえ、おりませんでした!しかし、蓄えられていた穀物の大半が持ち去られております!おそらく、テネブルシュール卿の兵たちが略奪していったものと……!」
「そうか、ご苦労」
私戦において、敵地の物資を略奪するのは常套手段だ。
っていうか、理由は適当でとにかく相手の物資を奪って腹を満たしたいという考えの連中すらいると聞く。
なので、そちらが荒らされている分にはおかしくはない。
騎士が徴税官の館にやってきて、銀貨はともかく……塩やその帳面、さらには捕まった徴税官を連れて行く方は、おかしい。
ひょっとして、だが。
ギヨーム・テネブルシュール卿は、ただ私に復讐したかったわけではないのか?
屈辱を晴らすことは主目的ではなく、略奪はもののついで。
証拠の隠滅が狙いか?
塩の密輸について、テネブルシュール卿が絡んでいると?
そうなれば一大事だ。
何せ塩の密輸に、末端とはいえ貴族が絡んでいることになるぞ。
いや、ジャン・ドニが連れ去られた時点でほとんどそれは確信に近い。
単に捕縛されている男がいたとして、可哀想だから逃がしてやろうだなんて考える人間なんていないだろう。
ジャン・ドニが小太りの中年男性でなく、美少女だったならば所業に関係なく解放する奴はいるだろうが。
「……はぁ」
思わず、深いため息が漏れた。
てっきり欲の皮が突っ張った商人やら役人やらが暴走した結果だと思っていたら、貴族が出てきたのである。
これがテネブルシュール卿だけの話で収まればまだいいが、もし裏にさらに高位な貴族様が出てきたら……そこまでいったら戦争だろうが。
さて。
村の広場に戻ると、そこは酷い様相を呈していた。
負傷者たちのうめき声、家族の安否を気遣う人々の泣き声、そして必死に手当てを行う村人たちの姿。
空家を借りはしていたが、そこには収まりきらなかった人々だ。
その中心に、呆然と立ち尽くす村長の姿があった。
彼は変わり果てた自らの村を前に、ただ言葉を失っているように思える。
私は彼の前に進み出ると、腰に下げていた革袋を掴む。
サーモ伯爵から褒賞として賜った銀貨が、ずしりと詰まっている感触がなんとも心地よいが、今はどことなく、冷たく感じられる。
「これは……」
「杭打ち槌の代金だ。勝手に借りたのでな。このまま買い上げたい」
私は4人の傭兵を始末したスレッジハンマーを見せる。
私の言葉に、村長はハッと我に返った。
彼は慌てて首を横に振り、その革袋を押し返そうとする。
「滅相もございません、アニエス様!それにこれほどの価値はありませぬ!!……それに、アニエス様が来てくださらなければ、我々は皆殺しにされておりました!そのようなもの、受け取れるわけがありません!」
「……そうか。私の馬……ノワールに、腹一杯、水と飼い葉を与えてやってくれ。その代金として受け取ってくれ」
「それは、アニエス様……!」
「ただし、世話は女にさせろ。言うことを聞かん」
「冗談ですかな?」
「冗談ではないのだなぁ……」
私がそう言って再び革袋を差し出すと、村長はしばらくの間私の真意を測りかねるように、じっと私の顔を見つめていた。
やがて彼は全てを悟ったように、深く、深く頭を下げる。
その手は感謝と、そして申し訳なさで、小刻みに震えていた。
「……ありがたき幸せにございます。アニエス様。この御恩は村の者一同、生涯忘れませぬ」
彼はその銀貨がスレッジハンマーの代金だとかノワールの飼い葉代などではなく、この村の復興のために与えられた資金であることを、理解したのだ。
こうでもしないと、なかなか大っぴらに資金提供できないんでな。
村長ともなるとさすがにこの辺の機微を理解してくれて助かる、本音を隠す建前というのもなかなか大変だ。
そうして事後処理が一段落し、太陽も沈み切ったころ。
負傷者を診るため、そして周囲に散ったギヨームの兵の残党がやってくるかも解らんので、警戒のために点けた松明の火の明かりのもと、私は広間の中央でスレッジハンマーを振るい続ける。
このスレッジハンマー、なんか非常に手に馴染むのだ。
剣とは違い、刃を立てて引きモノを斬る、という、戦いの最中でやるには少し手間な行動を取らずとも、ブン回して先端が命中すればダメージを与えられる。
私の膂力で剣や槍を振ると、敵を皆殺しにする前に先に武器が駄目になるのが難点で、いつもはパワーを抑えているからな。60%ってところか……。
その点、このスレッジハンマーは割と全力でぶん回してもガタが来ている様子はない。
長く使える、風雨に耐えることを目的にした「道具」だからこその頑丈さと言うやつだ。
……とはいえ、この頑丈さにかまけてハンマーぶん回しスタイルで戦い続けると、変な癖がついて、まともに剣で戦えなくなっても困るので注意しないといけないが。
これは思ったより良い買い物だったかもしれん。
我終生の友を得たり。
とはいえ、剣とは使い勝手が違うためにこうして素振りして感覚をつかんでいるわけだ……長さも重さも何もかもが違うからな、命を預ける武器になるのだ、訓練は積んでおいて損することなど何一つない。
そうして暗中、スレッジハンマーを振るって具合を確かめていた。
そこにパトンが戻ってくる。
「パトン、ノワールの食事はまだか」
「は、はい。今、村の女性たちが世話をしておりますが……なんという食欲でございましょう。村中の飼い葉が、あっという間になくなりそうでございます」
ちなみにノワールだが、当初は一角獣の伝承の通りに生娘だけで対応をさせていた。
が、普通に恋人がいたり結婚していたり、なんなら既に子供のいる主婦だったり、おばさんだったり、孫もいるお婆さんだったりでも大人しくしている。
お前の守備範囲広すぎないか?
揺り籠から墓場までイケる口か。
いや、こちらとしては非常に助かるんだが。
ノワールの世話を専属で頼んでいるマリーに、結婚するななどと非道なことを言わんで済むのでな。
「そうか。……食事が終わり次第、出立する。テネブルシュール卿の領地へ向かう」
私の言葉に、パトンはぎょっとしたように目を見開いた。
「な、何を仰せですか、アニエス様!正気でございますか!?敵の領地へ、今から乗り込むなどと……あまりにも無謀です!」
パトンの制止はもっともだった。
敵の拠点のど真ん中に何の準備もなく乗り込むなど、自殺行為に等しい。
しかも私の手元に残っている兵は、ほとんどが手負いの者ばかりだ。
さらには夜である。
日が落ちきり、地平線の向こうが微かに赤みが見えるだけだ。
この時代の夜は、本当に暗闇なのだ。
電気などないこの時代、当然街灯もないし、街明かりなどない。
日が落ちれば眠るのが基本であり、夜でも明かりを落とさぬのは、主要な都市の城壁や門前くらいだろう。
そして夜とは獣の活動する時間帯である。
月追狼や夜鳴鳥など、凶暴な夜行性の魔物が闊歩しているわけだ。
よほどの事情がなければ、夜間に移動などしまい。
よほどの事情さえなければ。
「無謀ではない。むしろ、好機だ」
私は、彼の心配を退けるように、冷静に答えた。
「ギヨーム・テネブルシュール卿は、私を討つために手勢の兵をこの村に差し向けた。そして、その兵たちは今や散り散りだ。テネブルシュール領の元に戻れたものがどの程度いるのやらな」
テネブルシュール騎士爵領の規模は、我がジルベール騎士爵領と規模は大差ない。
村人の数も大きく乖離はしていないだろう……そうするとギヨームは、徴兵できる人間ほとんどを引き連れて攻め込んできているはずだ。
傭兵もあの5人以上はいないだろう。金食い虫の傭兵を行軍に連れて行かず、自分の領に置いておくような余裕があるとは思えん。
むしろ、それを可能とするだけの金銭的な力の差があるのなら、我が領は私が騎士になる前に、前テネブルシュール卿によって飲み込まれているだろうからな。
逃げて行った何人かの兵はテネブルシュール卿の領内に戻れたかも知れんが。
私は一旦言葉を切り、パトンの目を見据える。
「つまり奴の領内には、ほとんど兵が残っていない。いるとしてもごく僅かな手勢だけだ。テネブルシュール卿はこの場から途中で去ったのだろう。それならばソーヌ村の襲撃を成功だと思い、今頃満足して寝床についているやも知れぬ。こちらの兵力が少なくても、十分に戦える」
テネブルシュール卿の耳に、自分の手勢の敗北の報が入るよりも先に殴り込みを仕掛ける。
電撃戦ってやつだな。
私の言葉に、パトンは信じられないという顔をする。
「それに夜間での移動は慣れている」
ダミアンに暗中行軍訓練とか称されて深夜の森に放り込まれたからな。
最初は本気で死ぬかと思ったんだぞ。
「しかし、アニエス様……!それでも、危険すぎます!せめて、テネブルシュール卿の兵力が回復する前に、サーモ伯爵閣下にご報告し、ジルベール領より援軍を連れてくるべきでは……!」
「それでは間に合わん」
奴は塩の密輸ルートの証拠と、その証人であるジャン・ドニを手に入れた。
証拠を隠滅されると、この塩の密輸に関する一連の事件を追うことが不可能になる。
そもそも、私はサーモ伯爵に「引き渡しまでの管理」を命ぜられたのだ。
いかにテネブルシュール卿が塩の密輸に絡んでおり、半ば奇襲気味に我が領を襲い、証拠を奪い去ったのだ、と弁明したところで私の落ち度は変わらん。
さらには、サーモ伯爵は王家に報告するとも仰っていた。
これで王家より使者を引き連れて我が領にやってきてみろ。
意気揚々と見に来てみれば、そこにあるのは何もかも奪い去られたもぬけの殻だ。
面子丸つぶれである。
私も、サーモ伯爵も、やってきた使者殿も、その上の王家もだ。
本当に帝国の工作員が関与しているのであれば高笑いを上げるだろう。
前世の常識で考えりゃ、ここでテネブルシュール卿を責める話になるはずなのだが。
しかし、ここは荒野のウェスタンよりも遵法精神が希薄な中世のヨーロッパもどきの世界。
証拠がない以上、テネブルシュール卿が知らぬ存ぜぬを突きとおせばそれが通用するのだ。
もちろん、伯爵や王家の権限で強制的な調査も行うことはできるが、それは他の地方の領主や騎士らの反感を招く。
証拠を探すために強制捜査するのであれば、強制捜査する理由に足る証拠を出さねばならんのである。
スコラ学もびっくりだ。
というわけで、少なくとも私とサーモ伯爵は連座で責任を取らなければならなくなる。
絶対に許されん。
一刻も早く、テネブルシュール卿からすべてを取り返さなければならん。
ジャン・ドニを殺さずに連れて行ったということは、何かしら生かしておく理由があったのだろう。
だが一度、奴が領外へ出てしまえば、追跡は困難になる。
事態は一刻を争うのだ。
夜でも行軍をしなければならんほどの一大事。
そして私は静かに続ける。
「私の領地を荒らし、私の民を傷つけた。その落とし前は、私がつけねばならん。これはジルベール家当主としての私の戦いだ」
ギヨーム・テネブルシュール卿。
彼は私を領地を攻撃したのだ。
奴は私の領民を殺傷したのだ。
奴は私の村落を破壊したのだ。
ふざけやがって。
舐めてんのか?
女の騎士だからって下に見てんのか?
私個人にそれをする分には許そう。
だが騎士としての私に付き従う者たちを舐めるのは許さん。
殺す。
「……お供いたします」
「ならん。お前にはここで負傷者の治療と、もし散っていったテネブルシュール卿の手勢の者がやってきたときの指揮を執ってもらわねばならん。それがお前の戦場だ……必ず戻る。それまで、この村を頼んだぞ」
「……御意に」
私はこの度の戦で怪我をせず、まだ戦う気力が残っている数人の兵士だけを選抜した。
ノワールに跨り、兵らを見る。
彼らは皆、私の圧倒的な力と、そして領主としての覚悟を目の当たりにし、恐怖よりも忠誠と信頼の光を目に宿している。
彼らと共に、私は夕暮れのソーヌ村を後にした。
目指すは、ギヨーム・テネブルシュールの館。
敵の巣穴だ。
ノワールがこれから始まる狩りを予感したかのように、高く、鋭く嘶いた。
【略奪】
村落や荘園より物資を調達するのは、この時代では当たり前であり、当然の権利だと考えられていた。
教会や王家は無秩序な略奪を禁じようと動いてはいるが、それが守られることは殆どなかった。
酷いものになれば、村落が税を払うために同じ領内のある別の村落を襲い略奪し、その村落が奪われた税分を補填するためにさらに別の村落を襲い、その村落もまた困窮して最初に略奪を始めた村落を襲い殺掠していくという、寓話的な状況に陥る場合もあった。
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