第15話

 しばらくして運ばれてきた夕食は、ご飯に味噌汁、そしてめざしが一匹に漬物。

 

 あまりの対応に開いた口がふさがらない。

 とりあえず空腹を満たすために食べてはみたものの、これでは病院食の方がまだましだ。



 春奈は天井を眺めながら、悔しさに押しつぶされそうだった。



 薄暗く湿気っぽい角部屋は日当たりも悪く、ところどころ染みができている。

 染みは人の顔のように見えて、春奈に話しかけてくるような錯覚に陥る。

 お前は一体ここで何をしているんだ? と。



 窓の外で高々と輝く月をぼんやりと眺めて、思った。



 夜のうちに帰ろう。



 ここにいたら、あの頭でっかちな侍たちにあーだこーだ理屈こねられて、ろくな目に合わないのは分りきっている。



 言葉の端々に見え隠れする本島人への差別、侮蔑する考え。まして圏主が小学生だなんて。

 この状況を報告するだけでも、本島にとっては大分収穫だ。



 春奈立ち上がり、勢いよく襖を引いた。

 しかし、どんな力で引いても、うんともすんとも言わない。



 ぐぐぐぐぐ、と歯の奥を噛みしめながら引こうにも動かない。

 しまいには推理漫画で密室に踏み込む探偵並に全力でタックルするも、妙に頑丈な入口は壊れるどころか開きもしない。



 座敷牢にとじ込められた。


 いよいよ嫌気がさしてきた。



 よく見たらさっきまでいた千歳の間よりも、梁が多く頑丈な作りになっているようだ。



 はあ、ここを抜け出して船着き場まで行って自分で漕いで帰ろう。

 船がないなら泳いでも帰ってやる。



 鞄を抱えると、春奈は一つだけある窓から身を乗り出した。


 ここは二階で、下は庭園になっていて、丁寧に切りそろえられた木や池などがある。

 横を見ると中二階になっているのか、少し低めの屋根があった。


 これ、注意すれば中二階の屋根をつたって下まで降りられるんじゃない?


 息を吸って、左手に鞄を持ち欄干に足を乗せた。

 どうやら一人分の体重なら持ちこたえられそうだ。


 壁に右手をついて、細い欄干の端をおそるおそる、一歩ずつ歩いて行く。


 風は幸運にも凪いでいるが、夜露で足が滑りそうになる。


 右手をぐっと伸ばして、隣の部屋の欄干に足を乗せた。膝が若干笑っている。

 いいよ、あと二、三歩行けば中二階の屋根になっていて、そうすれば飛び降りられる高さだ。



 春奈は脱獄中の死刑囚のような気持ちで、落ちるかもしれない緊張とバレるかもしれない不安で口から心臓が出そうになりながら、すり足で欄干を歩いて行く。

 


 風が吹いてきた。あと少し、あと一歩で屋根までいける、右手を遠くに伸ばして、



「藤川殿、危ないですよ!」




 ずる、と嫌な音がして内臓が浮く感覚が伝わってきた。


 ひやぁぁ、という世にも情けない声をあげて、春奈は地面にたたきつけられ全身打撲で重傷を負う、かと思いきや、日ごろ運を貯めていたおかげもあってか、丁度部屋の真下にあった池に落ち、ざっぱーん、と派手に水しぶきを上げ綺麗なミルククラウンを作った。



 水音が閑静な圏邸一帯に響き渡る。



 落ちたし、バレた。



「藤川殿!」



 声をかけてきた主は時雨で、自身も水しぶきを浴びて濡れながら、今まさに二階の高さから池に落ちた本島人を見て、驚き駆け寄った。

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