第17話 「す、すごい……本当に倒しちゃいましたね、ゼフ様……!」

俺は懐から試作の魔道具を取り出した。高位魔術師に投資して作らせた“重力球”だ。周囲の重力を増幅させ、空を飛んでいる相手を地上へ叩き落とす仕組みで、魔力を注ぎ込むことで効果が一時的に爆発的に高まる。


「おらっ!」


魔道具に魔力を送り込むと、重厚な波動が生まれ、ドラゴンの巨体をぐっと押し下げる。空中で踏ん張ろうとするが、羽ばたきが鈍って高度が下がってきた。


「グルルルッ……!?」


ドラゴンの動きが明らかに鈍る。その瞬間を逃さずに俺は駆け寄り、剣を振りかぶる。今度は狙いを定めて、ドラゴンの首元を全力で斬りつける!


「はあああっ!」


ガッ……という鈍い衝撃音。分厚い鱗に剣がめり込み、血がどくどく流れ出す。ドラゴンが絶叫し、苦しげにもがき暴れる。そこへさらに追撃を叩き込むため、剣に魔力を籠めて“斬撃波”を走らせる。

シュッ……ゴンッ!


斬撃波がドラゴンの首筋を抉り、血飛沫が噴き上がる。さらに隙間に連続で斬り込むと、ドラゴンの怒りが頂点に達したらしく、猛然と反撃の黒炎を吐いてきた。


「くっ……!」


咄嗟に“絶対防壁”を展開するが、至近距離からの黒炎は凄まじい威力。思わず数メートルほど吹き飛ばされ、岩に激突する。


「ゼフ様!」


リリアが駆け寄る。俺は岩壁に背を打ちつけた痛みがあるものの、戦闘には問題ないレベルだ。今の俺には回復魔法だって使えるから。


「大丈夫……こいつは今、首元に深手を負っている。あともう少しで倒せる!」


俺は身体から血が少し流れているが、すぐさま回復魔法を唱えて傷を塞ぐ。ドラゴンの方がダメージは遥かに重いはずだ。首から血を流し、呼吸が荒くなっている。


リリアは風魔法でドラゴンの動きを制限し、俺が接近戦を仕掛けるチャンスを作ってくれている。ドラゴンが再び飛ぼうとするたびに、風の渦で姿勢を乱して落ちるように誘導しているのだ。


「いいぞ、リリア……今がチャンス!」


俺は渾身の一撃を繰り出すべく、剣に最大限の魔力を注ぐ。光が眩しくほとばしり、ドラゴンを射抜くかのように剣先が輝き始める。相手は首を振り回して炎を吐こうとするが、さすがに傷が深いのか動きが鈍い。


「終わりだっ!」


高く跳躍してドラゴンの頭上へ回り込み、全力で首根っこを縦に斬り裂く。ガキン……ズバァンッ!手応えは硬かったが、貫通した感触がある。ドラゴンの咆哮が途切れ、動きがピタリと止まる。巨体がズシンと地面に崩れ落ち、急速に力を失っていく。


「……倒した……か?」


俺は喘ぎながら地面に降り立つ。ドラゴンの首を確認すると、完全に絶命していることがわかる。あれだけ手強かった相手が、今はただの巨大な肉塊になっている。


「す、すごい……本当に倒しちゃいましたね、ゼフ様……!」


リリアが信じられないといった様子でドラゴンの死骸を見つめている。俺も正直、達成感が半端じゃない。


(これが……投資で得た力だ。落ちこぼれだった俺が、誰も手を出せなかったドラゴンを討伐するなんて……)


胸に熱いものが込み上げてくる。戦闘中は夢中だったが、今こうしてみると、この成果はあまりにも大きい。こんな危険なドラゴンを自力で倒せるようになった自分が誇らしい。


「ゼフ様、お怪我はありませんか?」


「ああ、平気。少し痛いところがあるけど、回復魔法でもうどうってことないよ」


リリアが心配そうに覗き込む。俺は笑いながら彼女の頭をポンポン叩く。落ちこぼれの頃、彼女だけが俺を支えてくれた。そのおかげでここまで来られたんだ。


「ありがとう、リリア。お前のサポートがなかったら危なかったかも」


「いえいえ、私はほんの少しお手伝いしただけです。ゼフ様が強すぎるんですよ……」


そう言われて俺は苦笑する。確かに手傷は負ったが、投資の力によるハチャメチャな成長を実感した一戦だった。これなら、どんな敵と戦っても勝てるんじゃないか……そんな自信さえ湧いてくる。


「さて、討伐証拠としてドラゴンの角や鱗を剥ぎ取って持ち帰ろうか。ギルドに見せれば、S級依頼達成を証明できる。報酬は金貨一万枚だっけ?」


「はい。大金ですね!」


ドラゴンの素材自体も相当高値で売れるはずだ。すべてが俺の利益になる。もちろんギルドの分配や、必要に応じて領地にも貢献できるし……まあ、とにかくリターンの塊だ。


(本当に“株”スキルは無敵みたいなもんだな。投資先が増えれば増えるほど俺が強くなるし、その強さでさらなる高難度クエストをこなして、さらにお金が増えて……こうして上昇気流をずっと乗り続けることができる)


俺とリリアは手際よくドラゴン素材を回収し、ひとまず一息ついた。辺りはすっかり静まり返っている。恐怖の象徴だったドラゴンが消え去り、一時は荒れ果てていた山の雰囲気すら、どこか安堵のような空気が漂っている気がする。


「じゃあ、王都に戻るか。急いで報告すれば、今夜のうちにギルドで大騒ぎになるだろう」


「ですね! みんな驚きますよ、きっと。ドラゴンを倒してきたぞ~なんて」


リリアと顔を見合わせ、笑い合う。俺は落ちこぼれを卒業どころか、もうこの世界で敵なしになりつつあるのかもしれない。いや、もっと上の怪物や破滅的存在がいるなら、ぜひ会ってみたい。それすら打ち破れる気がするから。


こうして、俺たちはドラゴン討伐の証拠を手に、意気揚々と王都へ帰還するのだった。

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