第6話 「……なるほど。投資をした相手が成長すればするほど、お前にも利益が返ってくる、というわけか」

父と兄たち、そして俺。それにリリアも同席して、広間にて話し合いが行われた。今までは俺が会議に呼ばれるなんてあり得なかった。落ちこぼれの三男など、召使の同席すら許されなかったのだ。


しかし、この数日の“投資”による実績、そして長兄を下した実力を示したことで、俺の存在は一気に注目を集めるようになった。


「……なるほど。投資をした相手が成長すればするほど、お前にも利益が返ってくる、というわけか」


「はい。普通の魔力付与とは違って、相手自身の才能や努力を引き出し、加速させるイメージですね。さらに相手から成果が返ってくれば、俺の魔力や身体能力も飛躍的に伸びるんです」


俺は父と兄たちに、“株”スキルの概要を説明する。といっても、この世界には“株”なんて概念が存在しないから、例え話や比喩を駆使して理解してもらうしかない。


兄たちは最初こそ怪訝な顔をしていたが、すでに俺の実力を目の当たりにしているから、否定はしない。


「それで、具体的に何をしてほしいのだ? お前も我々に投資をして、我々もさらに強くなるというのか?」


長兄がやや興奮ぎみに尋ねてくる。あれだけ俺をバカにしていたのに、今は“投資”してほしそうな顔だ。


「そうだな。たとえば兄上がさらに剣術を高めたいなら、俺が少し魔力を流し込む。兄上が努力すればするほど、その成果が俺にも返ってくる。そうすれば、お互いに強くなれるだろう」


「まさか……そんなうまい話があるのか?」


「実際、俺は闘技場の新米剣士や冒険者に投資してきたけど、みんなグングン成長しているよ。父上や兄上たちにやっても同じことだ」


もちろん、ただの金儲けとは違う。伯爵家の戦力を底上げすることになるし、領地全体にもプラスの影響を与えるだろう。父は顎に手を当てて考え込んでいる。


「……お前が本当に領地のためを思っているなら、我々としても協力を拒む理由はない。ゼフ、私にも投資をしてみろ」


父がそう言うと、周りの神官や騎士も驚いた顔をする。父は伯爵であり、歴戦の勇士でもある。そんな彼が“落ちこぼれ”扱いだった息子に投資を求めるなんて、普通じゃ考えられない。 けれど、父は現実主義者だ。俺の急成長ぶりを見て、ただ者ではないと確信したのだろう。


「わかりました。では、父上……少し失礼します」


「うむ……」


俺は父の前に立つ。さすがに魔力の放出先が父というのは緊張するが、やるしかない。ふっと息をついて、右手に意識を集中させる。すると、俺の手から青白い輝きが立ち上り、それが父の身体に吸い込まれていく。


「……おお?」


父は目を見開く。どうやら身体の奥に変化を感じ取ったらしい。


「なんだ、この感覚は……身体が軽い。それに、力が漲ってくるぞ……」


周囲が息を飲む。確かに効果は絶大だ。父のような高レベルの人物への投資は、その効果も高いに違いない。


そして当然、それに伴うリターンは、俺自身に“配当”として返ってくる。実際、今の瞬間、俺の体内にさらなるパワーが流れ込むのを感じた。


(すげえ……これ、父上の強さが俺に還元されてるんだ。俺の魔力容量、さっきまでの1.5倍くらいに膨れ上がってないか?)


体中が熱くなる。思わず顔がほころぶ。人に投資して相手が成長すればリターンがあるが、父はすでに高いステータスを持っている。つまり、即時に巨大な見返りを得たようなものだ。


“株”でいうと、とんでもなく株価が高い企業に投資して、一瞬で株価が跳ね上がるみたいなイメージか。


「ゼフ……これは本物だ。まさか、こんな形でお前が覚醒するとは……」


父の表情は驚愕に包まれている。長兄や次兄も、もはや目を離せないといった様子。


「よし、早速稽古場で剣を振ってくる……!」


父が血気盛んに立ち上がった。伯爵という立場でありながら、昔から戦いに情熱を持っていた人だ。きっとすぐにでも実践で試してみたくなったんだろう。


「父上、無理はしないでくださいね」


そう言いながらも、俺の中では嬉しさが止まらない。父が力を高めれば、その成果がさらに俺のもとへ返ってくる。これはもう、好循環というやつだ。


兄たちも黙っているわけがない。


「ゼフ、俺にもその投資ってやつを頼めるか? 今すぐにでも修行して、次こそお前を……」


長兄が言い、次兄も続く。


「私も協力する。魔術の研究をさらに進めたいんだ。もしお前のスキルで成長を加速できるのなら、こんなありがたいことはない」


俺は即答する。


「もちろん、協力するさ。お互いにメリットがあるからな」


こうして、あれだけ冷たかった家族が一気に俺に協力的になった。投資の成果が明白で、しかもすぐに効果を実感できるなら、彼らが飛びついてくるのも当然だ。


同時に、父は俺に領地経営の一部を任せようとさえ言い始めた。俺の投資で領地の民を強く、豊かにできるなら、それはもはや名家にとっても戦力増強の切り札となる。


「ゼフ、お前に領地の商人や農民、冒険者の支援をさせよう。金銭面については……そうだな、家の資金から一定額を預けるから、それを原資として投資を進めてみろ」


「本当ですか? それは助かります。資金が潤沢なら、投資先も一気に広げられますから」


伯爵家の資金ともなれば、俺が町でコツコツ稼いでいたのとは桁が違う。これで一気に投資を拡大できるはずだ。


“レバレッジ”という言葉が頭をよぎる。小さな元手に大きな資金を掛け算することで、爆発的な利益を狙う手法だ。俺は当初こそ自分の小遣いや微々たる収入で投資していたが、今では伯爵家の資金を使えるなら倍どころじゃない規模になるだろう。


「助かります、父上。それなら、この領地で実際に成功しそうな冒険者や商人、農民に一気に投資をして、規模を拡大してみます!」


「頼むぞ、ゼフ。私もお前がそこまでやれるとは思わなかったが、このスキル……本当に恐ろしい力だ」


父はそう言って目を細める。確かに、まだまだ未知数だが、やり方次第では伯爵家の立場を超えて王家に匹敵する権力を得ることも不可能じゃないかもしれない。


一方で、もし俺が敵対する勢力に投資すれば、伯爵家にとっては脅威となるだろう。その力が自分の子に宿っているということに、父は一抹の不安も覚えているのかもしれない。


ただし、俺は今は父に反発するつもりはない。かつては冷たい扱いを受けたが、いま俺に力がある以上、そうそう理不尽なことはされまい。ともあれ、家族の理解を得られたのは幸いだ。


「とにかく、さっそく明日から動きましょう。リリア、父上から預かる資金の管理を手伝ってくれ」


「はい、ゼフ様。しっかりやらせていただきますね」


リリアは嬉しそうだ。俺も頼もしい。使用人たちも、もはや俺を“落ちこぼれ”なんて呼ぶ奴はいない。伯爵家の新たな要となるかもしれない存在だという認識に変わりつつある。


――こうして俺は、伯爵家の正式な“投資責任者”のような立ち位置を得た。

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